【音声を使った受験事例(第2報)】 【会員の論文・学会発表】  Top


                    *機関誌第7号参照

  ■ 第30回 視覚障害リハビリテーション研究発表大会 ■

   「ゆいまーる会員の音声を使った受験事例」(第2報)


   ◆ 事例1「社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師国家試験受験レポート」

              石 倉 正 徳


 現在、福祉現場で就労しており、さまざまな相談を受けることがあります。利用者さまへの支援は、現任者研修等の知識や先輩からの指導による経験的な支援になりがちでした。そのため、専門的な知識を習得することや自らの視野を広げ、訓練を継続し、支援の質を高めることを目的に国家試験を受験することにしました。

 受験に当たっては、まず、受験のための学習環境(参考書や問題集等)が準備できるか不安でした。また、受験に当たって全盲の視覚障害者に必要な配慮があるのか、円滑に受験できるのかが不安でした。そこで、試験の概要について、試験実施機関のHP等を参考に受験が可能かをおおまかに閲覧し、わからない部分は試験実施機関へ直接問い合わせました。

 試験勉強は、点字図書館で書籍の朗読や問題集をテキスト化していただき、それらのデータを基に学習をしました。また、気分転換に音声を聞くだけですが、ユーチューブで参考となる番組やSNSを検索してイメージを膨らませました。

 次に受験配慮の準備は、スクリーンリーダーソフトを用いたパソコンでの受験というそれまでの形式的配慮にはない受験方法を希望していたため、受験予定の2年前から試験実施機関へ問い合わせをしました。しかし、試験実施機関では、具体的な配慮の相談は受験願書および特別措置の申請書の提出を受けてから正式に配慮について検討・相談を始めるという姿勢でしたので、あくまで意見の聞き取りに留まっていました。

 実際の受験手続きでは、受験願書に加えて、身体障害者手帳の写し、医師の診断書、配慮を希望する申出書等を提出しました。希望した配慮内容は、個室受験・試験時間の延長(1.5倍)・パソコンを活用した試験実施(解答を含む)・試験会場内での誘導としました。

 申請後、試験実施機関の担当者から配慮内容についての方向性が示され、受験票発送期日間際まで担当者と受験配慮に関する調整をしました。結果は、パソコンを用いた受験に変えて、代わりにデイジーCD(音声を録音したもの)を用いた試験実施と解答の代筆とされ、その他の配慮は概ね希望どおりとなりました。

 今回の試験では、試験実施機関としてスクリーンリーダーソフトを用いたパソコンでの受験を検討していただけている感覚がなく、マニュアルに基づいた配慮内容が示されたように思いました。一方、配慮希望と実際の配慮の相違について、具体的な相談を試験実施機関の担当者と継続できたことで、できることとできないことの整理ができ、建設的な協議ができたと思います。

 本来、受験者が必要とする配慮は身体状況等により異なるもので、現状でも診断書や特別措置の申請書に基づき、特別措置委員会によって審議・決定をされているものの、マニュアルや想定された配慮の組み合わせ以外にも試験実施機関が受験者から十分に状況や配慮希望を聞き取り、相互に微調整を積み上げていく必要があると考えます。

 今後、期待することは、さまざまな状況下にある受験者がベストコンディションで受験できる環境づくりが検討される場の確立であり、試験実施機関と相互理解を図り、適切な配慮が受けられることだと思います。最後にさまざまな工夫と協力体制があれば、重度の障害を有していても試験受験や資格取得が可能なことがわかりました。もちろん、全てが希望に沿えた配慮でなくてもチャレンジできる環境を少しずつでも整備していく必要があると考えています。また、それは後に続く仲間の道筋を作ることにも繋がるのだと思いました。


  ◆ 事例2「社会福祉士、精神保健福祉士国家試験受験レポート」

              前 北 奈 津 子


 私は、2021年2月に社会福祉士・精神保健福祉士の国家試験を受験、合格した。今回、学校や訓練機関、試験センターなど多くの人の協力を得て、一番実力が発揮できる方法で試験を受けることができた。このような環境を与えていただいたことに、心より感謝している。今後受験を考える人の一助になることを願い、今回の体験を報告しようと思う。

 私は、小児科の看護師として勤務してきたが、30代のころに視覚障害となり、一度は働くことをあきらめたが、さまざまな人と出会う中で、もう一度対人援助の仕事をしたいと考えるようになった。そこで、相談援助や福祉について学ぶために大学へ編入学し、社会福祉士と精神保健福祉士の資格をとろうと考えた。

 大学入学直後、先生に両方の資格をとるための相談をした。受験をサポートするワーキンググループを作っていただき、学校でのテストや国家試験受験方法をいろいろ検討した。その結果、一番解答しやすい方法は、テキストデータの問題文をパソコンのスクリーンリーダーで読み、そのデータに直接入力することであった。

 試験センターには、受験前年度の春、現状の視覚障害者への配慮について問い合わせを行った。その時点では、点字による受験か、デイジーCDを用いた受験が認められているという回答であった。そのため、パソコンのスクリーンリーダーを用いた受験が可能となるよう働きかける必要があると判断した。

 そこで、主治医、訓練機関、学校からの意見書で嘆願書を作成し、試験センターに提出した。主治医には現在の見え方、訓練機関にはパソコンのスクリーンリーダーを用いた受験が多くの視覚障害者にとって有益であること、学校には代読者による音声読み上げとパソコンのスクリーンリーダーを用いた場合の解答時間のデータなどについて意見をいただいた。

 その後、試験委員会から受験申し込みの際に、具体的な配慮を申請してほしいという回答を得た。申請した配慮内容は、テキストデータでの問題文提供、解答はスクリーンリーダー搭載のパソコンに記入すること、試験時間の延長(1.5倍)、点眼薬の使用、日光が当たらない座席、別室受験、盲導犬や介助者の同伴、会場内での誘導である。その後、試験センターの担当者と電話でも内容を確認した。

 配慮決定通知の内容は申請した通りであった。時間は1.5倍であり、自身のパソコンを用いてUSBで配布されたテキストデータ形式の問題に直接解答を記入して提出、解答用紙も持参したプリンタで印刷することとなった。盲導犬や介助者の同伴、点眼薬の使用、暗幕のかかった部屋での受験なども認められていた。
 受験票には、USBに入ったサンプル問題が同封されており、指定された方法で解答して送り返すようになっていた。

 結局、解答は口頭で、代筆者がマークシートに記載するという方法が一番いいと判断した。今回の試験では、自分が希望する形式での受験を認めてもらえることができ、慣れた自分のパソコンで試験を受けることで、安心して試験に集中することができた。当日、試験会場で困ることは特になかった。

 今回の試験準備でも、教科書のテキストデータの提供、授業や講習時の図表の口頭説明、参考書や講習会テキスト・模擬試験問題のテキストデータ化など、本当に多くの人に協力していただいた。そのお蔭で国家試験を受験し、新たな資格を取得、自信を持つことができた。

 私は現在、相談支援専門員として福祉の現場で、目標であった対人援助の仕事に再び就くことができている。障害があっても見えなくても、夢や目標を持つことをあきらめずに、これからもいろいろなことに挑戦していきたい。そして、私の挑戦が次の誰かの新しい一歩を後押しすることができればと願う。