【視覚障害者における特例受験ケースレポート】  【機関誌】  Top


               守田 稔(もりた みのる)     藤原 義朗(ふじはら よしろう)
               村瀬 樹太郎(むらせ じゅたろう) 高原 芳美(たかはら よしみ)

 
 1. はじめに

 視覚障害をもつ医療従事者の会『ゆいまーる』は、見えない、見えにくいというハンディーをもちながら、いろいろな医療関係職に従事する者が集まり、情報交換や親睦を深めていこうという趣旨のもとに、平成20年6月8日に発足した。
 平成21年8月末現在、正会員15名(医師9名、理学療法士4名、臨床心理士1名、社会福祉士1名)と、協力会員32名の構成となっている。正会員の中には、視覚障害を負ってから医療に関わる資格試験を受けた者も少なからずあり、本年5月に行われた当会総会にてそのときの受験方法について各人からの発表を行なった。今回、後日その発表内容をアンケートにて再度募集し、若干の考察を加えた。
 なお、障害に配慮した受験方法をここでは総称して「特例受験」と表現する。


 2. 調査方法

 当会は、発足当初からメーリングリストとホームページを活用している。今回はメーリングリストを使用して、各会員からの意見を募集し、アンケート項目をさらに適切なものへと追加修正した。その後、完成したアンケート項目を各受験者に送信し、回収したものを整理した。対象資格試験は、理学療法士国家試験、医師国家試験、臨床心理士資格試験、社会福祉士及び精神保健福祉士国家試験の4試験となり、その他に大阪府職員採用試験、大阪市職員採用試験の2試験も追加記載した。


 3. アンケート結果

 アンケートは次の13項目でなされた。
 (1) 試験名
 (2) 実施年月
 (3) 実施機関
 (4) 視覚障害の程度(受験当時)
 (5) 障害に関する補足事項
 (6) 障害に応じた配慮の申請
 (7) 受験方法
 (8) 読み上げ方法
 (9) 解答方法
 (10) 試験、解答方法に関する補足事項
 (11) 試験時間
 (12) 持込みが許可された物・試験で使用した道具
 (13) 受験会場

 アンケート結果を表に示す。結果は、会員6名(AからF)が今までに受験した11ケースについてまとめた。
 11ケースの試験の内訳は、理学療法士国家試験1ケース(A)、医師国家試験5ケース(BからD)、臨床心理士資格試験2ケース(E)、職員採用試験2ケース(F)、社会福祉士及び精神保健福祉士国家試験1ケース(F)である。  以下、各ケースについて記す。

 <ケース A>
 第18回 理学療法士国家試験(1983年3月 旧厚生省)
 視力は両眼ともに0.1(夜盲あり)であった。受験方法は墨字受験で11ポイント程度のやや太字の明朝体、やや肉太に印刷された。解答はマークシートではなく、解答用紙の解答欄に数字を自分で記入した。試験時間や受験会場は通常どおりに行われた。試験要項に事前申請に関する記載がなかったため、配慮の申請は行なっていない。

 <ケース B>
 第97回 医師国家試験(2003年3月 厚生労働省)
 視力は全盲(23歳頃の中途失明)で、上下肢障害があった。点字は読むことができない。配慮の申請では、自記式または点字での解答方法を、代筆解答方法に変更希望し、了解された。
 受験方法は、音声(対面朗読)で、解答方法は口頭で解答し、マークシートには代筆で記入された。朗読の際、漢字や文章の確認は可能であり、レコーダーに録音し、再生聴取ができた。
 視覚素材に関しては、試験委員会が作成したメモの範囲内で朗読者が説明、または質疑応答可とした。試験時間は通常時間の1.5倍で、別室受験だった。持込みはカセットレコーダー、車椅子、杖が許可された。

 <ケース C1・C2・C3>
 第97・98・99回 医師国家試験(2003年・2004年3月、2005年2月 厚生労働省)
 視力は全盲(20歳代の中途失明)で、点字での読みは遅い。配慮の申請は、1回目の受験(第97回)は電話で交渉し、短い問題は点字で、長い問題は朗読での出題となった。2回目と3回目の受験は、再生機器の準備・操作を厚労省にお願いした。
 受験方法は音声・点字を用いた。1回目は対面朗読(厚労省職員)で、受験中、重要なところを点字でメモをし、必要な箇所の読み直しは可能だった。2回目と3回目は読み上げ方法としてMDプレイヤーを使用した。

 2回目以降の受験では、重要なところを点字でメモするだけでなく、聴き終えてからの内容確認の質問が可能になった(ただし、2回目の1日目は不可、2日目から可能に改善)。解答方法は口頭で解答し、マークシートには代筆で記入された。試験時間は通常時間の1.5倍で、適時 繰り上げ終了が可能であり、別室受験であった。持込みは点字器、点筆、点字用紙が認められたが、点字メモ装置ブレイルメモは許可されなかった。

 <ケース D>
 第102回 医師国家試験(2008年2月 厚生労働省)
 視力は右0.4(中心暗点あり)、左0.1(中心視野欠損あり)で、眼鏡矯正ができない。配慮の申請は、厚労省で受験方法について依頼し大学在学時の定期試験と同じ方式を採用してもらった。受験方法は、問題用紙(画像を除く)をB5からA4に拡大してもらい、解答はマークシートに自分で記入した。試験時間は通常どおりで、同室受験だったが最後尾の座席に配置された。持込みは電気スタンドと拡大鏡が許可された。

 <ケース E1・E2>
 平成14・15年度 臨床心理士資格試験(2002・2003年9月筆記、10月面接 [財] 日本臨床心理士資格認定協会)
 視力は全盲(21歳頃の中途失明)で、点字は読めるがスピードは遅かった。配慮の申請は、常用していたパソコンの持込みに関する確認作業、試験時間について交渉した。パソコンは事前の8月にチェックを受けた。
 受験方法は、常用していたノートパソコンを用いて音声化、及び入力した。試験問題はテキストファイル(媒体はフロッピーディスク)をスクリーンリーダーで音声化した。また、文字数を数えるソフトも使用してマークシート、論文ともに白紙のテキストファイルに記入した。試験時間は、マークシートは通常時間の1.5倍、論文は通常どおりで、別室受験だった。

 <ケース F1・F2>
 平成20年度 大阪府職員採用試験(一般行政職 2008年6月・身体障がい者対象2008年10月 大阪府)
 平成20年度 大阪市職員採用試験(身体障がい者対象 2008年10月 大阪市)
 視力は全盲(10歳代の中途失明)で、試験時の点字の読みは難しい。配慮の申請では、音声パソコンの使用を希望し、常用している機材の持込みを指示された。受験方法は音声で、音声パソコンを使用して読み上げ、解答をした。試験時間は通常の1.5倍で別室受験であった。音声時計の持込みは許可された。

 <ケース F3>
 平成20年度 社会福祉士及び精神保健福祉士国家試験(2009年1月 [財] 社会福祉士振興・試験センター)
 視力の状態はF1・F2と同様であった。受験方法は音声と点字で、デイジーを用いて読み上げ、点字マークシートで解答した。試験時間は通常時間の1.5倍で別室受験であった。持込みは許可されず、音声時計も持ち込めなかった。


 4. 考察

 2001年7月に、「障害者等に係る欠格事由の適正化を図るための医師法等の一部を改正する法律」が施行されたことから、視覚障害者がこれまで受験できなかった医師国家試験などの各種資格試験が受験可能となった。また法律の対象外の試験においても、近年視覚障害者に配慮した試験が実施されることが増えている。
 アンケートの結果、受験方法は受験者の視覚障害の程度、受験者の各種代替手段に対する能力によって種々の方法が行われていた。また、試験実施機関の特例受験に対する姿勢によって、受験者が受験しやすい環境となるかが大きく左右されていた。

 視覚障害者は、受験にいたるまでに各人の障害に合わせた学習方法をそれぞれで工夫している。そのため、健常受験者が自分の筆記用具を使うように、視覚障害者も普段の自分の道具を使えることが望ましい。点字や朗読による試験が受けやすい受験者がいる一方、今後は音声パソコンやデイジーなどの最新機器を使える受験者も増えるものと思われる。

 視覚障害者に対して、同じ道具を使い、同じ受験方法を取ることが、一見フェアな試験と思われるかもしれない。しかし代替手段に対する能力は各受験者によって様々である。そのため受験方法については、画一的なものとするのではなく、各受験者にとって最適な方法が選択でき、受験に合わせるための新たなトレーニングの必要がないことが、真のフェアな受験環境ではないかと考える。


 5. まとめ

 このたび視覚障害をもつ医療従事者の会『ゆいまーる』は、正会員に対して、視覚障害者における特例受験についてアンケートを行い、その結果をまとめ報告した。今後も、各種資格試験において、視覚障害をもつ方のチャレンジが続いていくものと思われる。このたびのケースレポートが、今後受験する方々にとって少しでも参考になれば幸いである。
 私たちがそれぞれの試験を受験できたのは、数多くの関係者や家族の協力、試験実施機関の方々の尽力、そしてそのような制度に導いた先人の方々の力のお蔭と感じている。最後にこの場を借りて、関係された多くの方々に謝意を表すとともに、今後に続く受験者に対しても適切な配慮が受けられることを願う。


  【表】<アンケート結果>

<ケース A>
 (1) 第18回 理学療法士国家試験
 (2) 1983年3月
 (3) (旧) 厚生省
 (4) 視力0.1(夜盲あり)
 (5) 特になし
 (6) 試験要項に、事前申請により器具の持込みが可の記載なし。
 (7) 墨字受験
 (8) ーー
 (9) マークシートではなく、解答用紙の解答欄に数字を自分で記入。
 (10) 11ポイント程度のやや太字の明朝体、やや肉太に印刷。
 (11) 通常どおり
 (12) なし
 (13) 通常どおり

<ケース B>
 (1) 第97回 医師国家試験
 (2) 2003年3月
 (3) 厚生労働省
 (4) 全盲(23歳頃の中途失明)
 (5) 上下肢障害あり、点字は読めない。
 (6) 自記式または点字での解答方法を、代筆解答方法に変更希望し、了解された。
 (7) 音声
 (8) 対面朗読(厚労省職員)
 (9) 口頭で解答し、マークシートには代筆で記入。
 (10) 漢字や文章の確認は可能。レコーダーに録音し、再生聴取が可能。
    視覚素材に関しては、試験委員会が作成したメモの範囲内で朗読者が説明、または質疑応答。
 (11) 通常時間の1.5倍
 (12) カセットレコーダー、車椅子、杖
 (13) 別室受験

<ケース C>
 (1) C1 第97回 医師国家試験
    C2 第98回 医師国家試験
    C3 第99回 医師国家試験
 (2) C1 2003年3月
    C2 2004年3月
    C3 2005年2月
 (3) C1・C2・C3 厚生労働省
 (4) 全盲(20歳代の中途失明)
 (5) 点字での読みは速くはないが、試験時間内にぎりぎりおさまった。
 (6) C1 電話で交渉し、短い問題は点字で、長い問題は朗読で出題してもらった。
    C2・C3 再生機器の準備、操作は受験者でもよいが、厚労省にお願いした。
 (7) C1・C2・C3 音声・点字
 (8) C1 対面朗読(厚労省職員)
    C2・C3 MDプレイヤー
 (9) 口頭で解答し、マークシートには代筆で記入。
 (10) C1 重要なところを点字でメモ、必要な箇所の読み直しは可能。
    C2 重要なところを点字でメモ。聴き終えてからの内容確認の質問が可能になった。
       (1日目は不可、2日目ら可能に改善)
    C3 重要なところを点字でメモ。聴き終えてからの内容確認の質問が可能。
       (前回の改善をふまえた対応)
 (11) C1・C2・C3 通常時間の1.5倍。適時 繰り上げ終了が可能。
 (12) C1・C2・C3 点字器、点筆、点字用紙(点字メモ装置 ブレイルメモは許可されなかった)
 (13) C1・C2・C3 別室受験

<ケース D>
 (1) 第102回 医師国家試験
 (2) 2008年2月
 (3) 厚生労働省
 (4) 右: 0.4(中心暗点あり) 左: 0.1(中心視野欠損あり)
 (5) 眼鏡矯正不可
 (6) 厚労省で受験方法について依頼。大学での試験と同じ方式を採用。
 (7) 拡大文字
 (8) ーー
 (9) マークシートに自分で記入。
 (10) 問題用紙の拡大(B5→A4)、ただし画像は除く。
 (11) 通常どおり
 (12) 電気スタンド、拡大鏡
 (13) 同室受験(最後尾の座席)

<ケース E>
 (1) E1 平成14年度 臨床心理士資格試験
    E2 平成15年度 臨床心理士資格試験
 (2) E1 2002年9月 筆記・10月 面接
    E2 2003年9月 筆記・10月 面接
 (3) E1・E2 (財)日本臨床心理士資格認定協会
 (4) 全盲(21歳頃の中途失明)
 (5) 点字は読めるがスピードは遅い。
 (6) E1・E2 常用していたパソコンの確認作業。試験時間について交渉。
 (7) E1・E2 音声
 (8) E1・E2 パソコン
 (9) E1・E2 マークシート、論文ともに白紙のテキストファイルに記入。
 (10) E1・E2 試験問題はテキストファイル、媒体はFD使用
 (11) E1・E2 マークシート:通常時間の1.5倍 論文:通常どおり
 (12) E1・E2 常用していたノートパソコン(事前・8月にチェックを受けたもの)
          スクリーンリーダー、文字数を数えるソフト
 (13) E1・E2 別室受験

<ケース F>
 (1) F1 平成20年度 大阪府職員採用試験(一般行政職・身体障がい者対象)
    F2 平成20年度 大阪市職員採用試験(身体障がい者対象)
    F3 平成20年度 社会福祉士及び精神保健福祉士国家試験
 (2) F1 2008年6月・10月
    F2 2008年10月
    F3 2009年1月
 (3) F1 大阪府
    F2 大阪市
    F3 (財)社会福祉士振興・試験センター
 (4) 全盲(10歳代の中途失明)
 (5) 試験時の点字の読みは難しい
 (6) F1・F2 音声パソコンの使用を希望し、常用している機材の持込みを指示される。
 (7) F1・F2 音声
    F3 音声・点字
 (8) F1・F2 パソコン
    F3 デイジー
 (9) F1・F2 音声パソコンを使用して解答。
    F3 点字マークシート
 (10) 特になし
 (11) F1・F2・F3 通常時間の1.5倍
 (12) F1 ノートパソコン、音声時計
    F2 ノートパソコン、プリンター(解答印刷用)、音声時計
    F3 なし(音声時計の持込みが許可されなかった)
 (13) F1・F2・F3 別室受験


 *このレポートは、2009年9月26・27日 第18回視覚障害リハビリテーション研究発表大会(高知県立ふくし交流プラザ)で発表した内容に加筆しました。