【点字印刷について】     【機関誌第5号】     Top


                        有 光 勲(ありみつ いさお)(高 知)


 私は、40年余り高知盲学校に勤務しました。そして、高知盲同窓会やいくつかの視覚障害者団体にも所属してきました。そんな中で会報の点字版発行やその他の点字文書の作成につきましては、一手に私が引き受けてやっておりました。といいますのは、今では誰でも簡単にできるようになりましたが、かなり以前には点字印刷となると、ちょっとした技術が必要だったからです。
 それでは、この点字印刷とはどのようにして行われるのでしょうか。そのあたりのことを少し説明してみたいと思います。

 点字印刷には、原版を作るための点字製版機と、それを点字用紙にプレスするための点字印刷機が必要です。点字印刷機は、百年ほど前と同じなのですが、点字製版機につきましては、驚くほど便利になりました。「今では誰でも…」と書きましたのはこのことなのです。

 以前の点字製版機は、点字のキーを押した状態でペダルを踏んで点字一マス(一文字)を打ち出すというものです。原版には二つ折りにした亜鉛板や塩化ビニール板を用います。大きさは、B5サイズです。製版できた原版は、二つ折りになっていますので、その間に点字用紙を挟み、点字印刷機の回転している二つのゴムローラーの間に通してプレスするのです。これで「出来上がり」という訳です。

 この足踏み式点字製版機は操作もそこそこ難しかったのですが、最も大変だったのは、原版の校正です。抜けた点を書き加えるのは何でもありませんが、余分な点を消すのが厄介です。その点に小さい棒状の点消し器を当ててハンマーでたたいて消していくのです。これにはほとほとイヤになったことでした。文字や行の挿入や削除などはもちろんできませんから、間違いが多い場合はその原版をそっくり書き換えるということになります。ですから製版する時によほど慎重に書かなければいけません。後の校正のことを考えますと、どんなにページ数の多いものでも、ゆっくり慎重に書かざるを得ません。1枚の原版を仕上げるのに3、40分、時には1時間ほどもかかったように思います。

 ところが、コンピュータ技術のおかげで、大変便利な点字自動製版機ができたのです。先ほど書きましたように昔の不自由さを体験していた私には涙が出るほど嬉しいことなのです。この点字自動製版機、便利なのは結構ですが、約700万円ほどもします。メーカーでは量産するほどの需要はないでしょうから、この価格は決して「高い!」などと言ってはいけないと思います。とにかくありがたいものを作っていただいた。感謝!感謝!という気持ちです。

 高知では私の所属している視覚障害者団体に点字出版所がありまして、高知盲卒業生が高知市の広報や高知市議会だよりなどの点訳を行っています。そしてこの点字自動製版機も配置されているのです。
 それでは、この自動製版機はどのように便利なのでしょうか。それは、点字のエディタを用いて点字のデータを作成するだけでいいからなのです。もちろん校正も自由自在ですね。足踏み式製版機の時のように機械の前に座る必要はありません。自宅で点字データを作ればよいのです。
 このできあがった点字データを自動製版機に接続されているパソコンに読み込み、スタートキーを押すだけです。片面が終わりますと自動反転して裏面が製版されます。原版1枚ができあがるのはわずか3分ほどです。

 最近では点字プリンタが普及してきました。これは、点字製版機や印刷機は必要とせず、連続点字用紙に直接打ち出します。しかし、この点字プリンタは、ページ数の多いものや教科書などのような部数の多いものには適しません。それと点字の選挙公報など選挙に関する点字の文書につきましては、この点字プリンタの使用は認められていません。
 それは、1部ずつ点字を打ち出していきますから、途中で誤動作を起こして変な文字が出ていたとしてもわかりません。できあがったもの一つ一つを確認しなければいけないからだと思われます。

 高知の点字出版所には先ほどの点字製版機がありますので、いろいろな選挙の際には、選挙管理委員会からの委託も一手に引き受けてやっております。ただ前述のように、点字印刷機につきましては大昔のままです。点字用紙を1枚ずつ原版に挟んで、それをローラーに通します。

 それでは、点字の自動印刷機はないのでしょうか。あることはあります。大阪の点字毎日と東京のヘレンケラー協会です。私はこの両方に電話して聞いてみました。この2台は少し方式は異なりますが、ドイツ製で価格は何百万円単位では買えないとのことでした。実物は見たことがありませんのでよくわかりませんが、かなり大がかりな機械になるのではないでしょうか。さすがに高知の点字出版所もこれには手が出せません。
 点字製版がこんなにも便利になったのですから、点字印刷について苦情を言ってはいけないと思っているのです。