【災害運動は私としての性(さが)】     【機関誌第5号】     Top


                         藤 原 義 朗(ふじはら よしろう)(高 知)


 1. 98高知豪雨

 98年、高知水害の12日前に早産で生まれた娘は現在19歳。
 「高知の孫の面倒をみよう」と、妻の両親は大阪から半年前に定住したところであった。私は視覚障害、妻は帝王切開、娘は1500グラムの新生児、義父は3週間前に胃癌の手術を受け、入院している。その4人の間を、義母は毎日自転車で駆け回っていた。

 そのような折、時間雨量129.5ミリのすさまじい豪雨が高知を襲った。高知市の東部3分の1が浸水するという大水害であった。豪雨の数日後、高知新聞に「避難所に居られない高齢障害者」と題して避難所の老人の写真が載っていた。豪雨の1週間前に訪問リハビリ指導をした脳卒中の患者さんである。床に座っていることもできない方で、姿勢保持やトランスファーの練習を始めたばかりの方であった。その時から、私の防災意識に火が付いた。

 @ 高知県から「障害者防災避難パンフレット」という災害への備えの為のマニュアルを作るよう依頼された。実行委員会を作り、編集長を担い半年後に完成した。名前は「IZA(いざ)」という。
 A その実行委員会を中心に高知水害被災障害者調査委員会を立ち上げ実態調査やアンケート活動を行った。調査結果や手記、提言を基にした「あの時、私は」を発行した。

 以前から在宅支援をしていた片麻痺の老老介護家庭の方からは「後ろの山がゴロゴロ崩れかかってきた。近所の人が『早く避難するように』と何度も来た。普段ぎりぎりの生活をしているのに、こんな雨の中を避難できるはずもない。崩れたら一緒に死のうと朝まで抱き合っていた」と、奥さんから聞いた。
 普段が余裕のない生活、災害がいかにこたえるかを示唆していただいた。


 2.Text Filing System Of PDF

 高知豪雨の調査の中で、ある全盲で床上浸水された方からは、「近所の方は市役所から消毒に来てもらっている。うちには来ない。たぶん、役所に申請するようにチラシかなんかの紙が配られたのではないか」と、言っておられた。

 その後、私もインターネットができるようになり、厚労省のホームページで災害救援情報があるのを知った。新潟や輪島の震災の時は救援情報のところを抜き取り、障害仲間のリーダーへ電子メールで送っていた。

 さて、東日本大震災であるが、その日に3本、厚労省通知が出ている。当時、その月に130本は出ている。それがなんとPDFなのである。11日に発出された3本の一つは「避難所における視覚障害者・聴覚障害者への配慮について」というのがあった。

 「壁に貼った物は声を上げて読んでください」「手話のできる支援者は『手話』と書いた腕章をしてください」などということが表にして書いてある。そのように障害や介護に関する通知も30本以上3月中に出ているのである。大切なお知らせが表やアンダーライン交じりのPDFでは、必要な人のところに届かない。

 全国音訳ボランティアネットワークの藤田代表と初めて連絡が取れ、テキスト化の必要性を語った。「何とか、やってみるわ」と受話器から聞こえた。テキスト化プロジェクトが滑り出し、私のパソコンから被災地のお世話役のところへ送信され、そこから現地へ転送されていった。ある岩手の方は、それらを50本CDに焼き付け送っておられた。次々リクエストが来た。

 「必要なのは救援情報だけじゃないよ。放射能野菜の情報をテキスト化して」など、ニーズは広がっていった。この際に、ゆいまーるで行っている雑誌のテキスト化のノウハウも参考になった。音ボラネットのテキスト化は生活情報や文献にまで広がった。中には、強度の弱視の学生さんから参考書のテキスト化が依頼されICUに合格された。


 3.HUG(ハグ)

 私の土俵の一つである高知県リハビリテーション研究会で、避難所運営ゲーム(頭文字をとってHUG)が、2014年に行われた。2006年に静岡で開発されたものである。東日本大震災の前、仙台のある避難所で行われており、震災時も比較的スムーズに運営できたと聞いている。

 参加者が避難所の受付役を担い、約250枚の事例カードを「どう対応したらいい」と、グループで議論していくものである。盲導犬を連れた鍼灸師の事例もある。各グループの討論結果を見てみると、「盲導犬は犬だから鉄棒につなげよう」「盲人さんは体育館のど真ん中に座らせたら、四方八方から援助が来ていい」などの声があがった。

 東日本の視覚障害者が放ったらかされていた悲惨な現状を取材していた私にとって、信頼している高知のリハビリメンバーから未理解な話が出てショックだった。そのような思いで、点字大活字ハグを考案したのである。

 @ 視覚障害者自身もハグに触れ、地域でハグ大会の時には意見を言える力を付ける。
 A 視覚障害事例カードを作り、グループ討議で考える機会をもち解説する。オリジナルカードとして、「夜盲の弱視の事例」「手のひら書きはわかる盲ろう者」「全盲で脳卒中」「ラジオの差し入れがありました」など作った。

 『ゆいまーる』では、2017年3月に関西ゆいまーる勉強会、9月に関東地方会で行わせていただいた。この点字ハグ運動を、ぜひとも地域の隅々まで広げていきたい。しかし、点字ハグといってもなかなか世間からは、なぜ視覚障害のハグが必要なのか意義をわかってもらえない。やっと高知の社会福祉協議会から依頼が入り始めて、兆しが見えてきたところである。

 さて、地域の災害フォーラムなどに出て行くと、良心的な地域のおじいさんやおじさんが中心に一生懸命やっている。しかし、「液状化」「縁石」など物理の話が多い。なかなか在宅の寝たきりや障害事例には議論が結びつかない。それもそうである。「外からは見えない」家の中のことである。

 在宅訪問をしてきた理学療法士35年の経験、視覚障害者半世紀以上の体験を活かし、要配慮活動、その人たちが支援役など、その地域の中での「つなぎ役・仕掛け役」になることをしていきたい。
 それが、私に課せられた性(さが)である。