【ガイドドッグ・N】   【機関誌第7号】     Top


                 半 澤 絵 美 子(はんざわ えみこ)(宮城県)

 1. ガイドドッグ・N

 群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、補助犬のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に突き進む盲導犬 near(ニア)。

 私の名前はニア、寄り添うとか、近いという意味で、生まれてきた時から育ててくれたパピーウォーカーさんが名付けてくれました。イエローのラブラドール・レトリーバーの元気な女の子です。1才から盲導犬の訓練が始まり、今のパートナーと共同訓練を受け、2才で無事に盲導犬になりました。現在4年目、6才です。人間でいうと40才から50才ぐらい。盲導犬のお仕事が10才ぐらいまでなので、折り返し地点といったところです。

 盲導犬は、目の見えない・見えにくい人の歩行を助けるために、「段差・曲がり角・障害物」を教える特別に訓練された犬で、身体障害者補助犬法に定められています。また、道路交通法によっても認められています。決して噛み付いたり、危害を加えたりすることはいたしません。ハーネスを着けている時はお仕事中なので、声をかけない・目を見つめない・食べ物を与えない、の3点にご協力いただけると、私、失敗しません。


 2. 私の仕事 (出勤編)

 私の1日は、5時半に起床、玄関でワンツーをしてご飯です。ワンツーとは、ワンが排尿、ツーが排便です。腰にベルトを着け、ビニール袋をお尻に当てて、パートナーの「ワンツー♪ ワンツー♪」の掛け声でします。ワンツーは、1日5回します。

 食後、私がゆっくり休んでいる間、パートナーはそこから時間との戦いです。お弁当を作り、洗濯をし、家族が次々と出発、私はしっぽをフリフリ見送ります。私も服を着て、ハーネスを着け、8時ごろ玄関を出ます。パートナーの「ストレート! ゴー!」の掛け声でお仕事開始です。

 ここからは私の腕の見せどころ、曲がり角、横断歩道の段差、パートナーの掛け声に合わせて、安全にバス停まで誘導します。バスが来たら、ドア、階段、チェアと指示に合わせて誘導します。パートナーの隣にダウンしたら、ハァーと一息。あっという間に職場の近くのバス停へ着きます。バス停から歩き、職場の病院に着くと、パートナーはタイムカードを押し、エレベーターで4階に上がります。

 4階に着いたらさらに階段を上り、4階と屋上の間の小さなフロアでワンツーをします。その後、4階病棟の食堂の奥にあるケージの中でダウン。おやすみモードです。そこから私は待機のお仕事です。


 3. パートナースのお仕事

 パートナーは、白杖を持ち2階の更衣室まで移動、着替えて4階へ戻ります。階段を使うのでよい運動です。そこからお仕事(パート看護師)が始まります。仕事は同じフロアなので、感覚と残った視野でどうにか移動、仕事開始です。

 まずは、オムツ交換から始まります。2人一組で患者さんのオムツ交換や清拭をして回ります。主にオムツを広げたり、寝たきりの患者さんの体を支えたりします。それが終わるとナースステーションで次の仕事が始まります。

 薬の管理を任されており、患者さん一人ひとりの薬を朝昼夕のケースにセットしていきます。残された視力と拡大鏡を使いながらのチェックです。
 お昼にパートナーが来ると、おなかを見せてご挨拶。また階段のフロアでワンツーをします。

 さて、失敗談です。オムツ交換のとき、患者さんの手と間違えて他の職員の手をつかんでしまったり、同じ人に何度も挨拶をしてしまったり、いろいろあるようですが、物を落としたり、何か困っているとみんなが助けてくれます。そんなこんなで帰りの時間がすぐにやってきます。


 4. 私の仕事 (帰宅編)

 パートナーが仕事を終え、私は嬉しい時のお約束、しっぽをフリフリお出迎え。4時ごろ、職場の病院を出発。バス停まで、よーい ドン! 帰り道、雨の日も雪の日も夏はまぶしく、冬はあっという間に暗くなります。見えにくくなったパートナーの様子がハーネスから伝わってきます。こんな時は集中! 安全に帰れるように誘導します。

 帰宅後、時間があると住宅街を20分ほど散歩します。だいたい同じルートなのですが、私も時々寄り道をしたくなります。家に帰ったら、体をブラッシングしてもらい家に上がります。その後のおもちゃ遊びが最高です。人間で言うと、仕事の後の一杯といった感じです。
 また、ワンツーをしてご飯の時間がやってきます。ご飯を食べた後休んでいると続々と家族が帰ってきます。私は、父ちゃん、高校生と大学生のお兄ちゃんに遊んでもらいます。その間、パートナーは夕飯の準備に追われます。9時半に私はワンツーをしてケージで就寝です。


 5. 私と出会って変わったパートナー

 パートナーは、私と出会う前から点字訓練や同じ病気をもつ仲間の会で、情報交換や交流することが、心の支えになっていたようです。また、盲導犬ユーザーの仲間が身近にいたことが、私との出会いにつながりました。

 私と一緒に生活するようになり、パートナーは自分の見え方や私のことを職場で説明できるようになったようです。1年目は自分の見え方と盲導犬について、2年目は自分の見え方と協力してほしいことについて、3年目は自分の見え方のゴーグルを使って実際に体験してもらいながら説明しました。

 4年目、遮光眼鏡に関して上司に相談したところ、患者さんのところに行く時も見やすい方を使った方がよい、もし患者さんに何か言われることがあれば、その都度説明すればよいと助言していただき、まぶしい日は濃い遮光眼鏡を使っています。その日によってまぶしさが違うので、とても楽になったそうです。

 このように、パートナーが前向きになれたのは、私ニアや多くの仲間、職場の皆さん、盲導犬協会の訓練士さんや大学病院ロービジョン外来の先生、視能訓練士さん、宮城県視覚障害者情報センターの職員さんなど、周囲の方々による仕事上での工夫のアドバイスや支援のお蔭だと思います。
 パートナーは、見え方について職場で次のような説明をしています。


 6.見え方について職場での説明

 病名は、網膜色素変性症で白内障も合併しています。私の場合、弱視、視野狭窄が進行し、中心の一部分しかはっきり見えません。特に足元、手元が見えず、他は全体的にくもってぼやけて見えます。まぶしさ、夜盲、暗順応が悪く天候や明るさに慣れるのに時間がかかります。そのため、オムツ交換やシーツ交換の際、電気を点けたりして調整させてもらっています。

 また、物を見つけるのが困難なため、声をかけていただけると助かります。仕事中の移動は、感覚と音を頼りにゆっくり行動するようにしていますが、ぶつかりそうになった時も声をかけていただけると助かります。文字は、濃い物やコントラストがはっきりしている方が見えます。

 そして、説明の後に「今後もご迷惑をおかけしますが、今まで通り自分でできる仕事をしっかりやらせていただきますので、あたたかく見守っていただければと思います」と、話しています。


 7. 最後に

 パートナーの職場の病院で、時々患者さんに会うことがあります。94歳のおばあちゃんが、私と会って涙を流して喜んでくれます。私も嬉しくて、またまたしっぽをフリフリしてしまいます。パートナーを「ワンちゃん看護師さん」と呼んでくれているそうです。

 また、私を見て「癒される」と応援してくれる職員の方もたくさんいます。私と楽しく生活することで家族や職場のみんなが明るく笑顔になり、私が人とのつながりのきっかけにもなっているようです。
 パートナーがつらい時、私の体を貸してハグさせてあげます。盲導犬の次はセラピー犬のお仕事もいいな〜、なんて思っています。