【ロービジョン受験方法の工夫と配慮(第1報)】 【機関誌第7号】  Top


  ■ 第30回 視覚障害リハビリテーション研究発表大会 ■

    会 期: 2022年7月15日〜17日(名古屋)
    テーマ:「未来を語ろう! 〜誰一人取り残さない! 視覚リハのSDGs〜」

    発 表:『視覚障害者における国家試験受験』(ポスター発表予定)

        「ゆいまーる会員 ロービジョン受験方法の工夫と配慮」(第1報)

         ○ 佐藤 由希恵 視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)
           山脇 かおり ゆいまーる会員
           守田 稔   ゆいまーる代表

 1. はじめに

 視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)は、見えない、見えにくいというハンディーをもちながら、いろいろな医療関係職に従事する者が集まり、情報交換や親睦を深めていこうという趣旨の下に、2008年6月に発足した。
 2022年3月現在、正会員29名は、医師17名、看護師2名、理学療法士8名、言語聴覚士1名、社会福祉士1名の構成となっている。また協力会員(ボランティア、家族、友人、その他)72名の中にも視覚障害をもつ医療従事者・医療資格保持者(医師 2名、看護師 11名、理学療法士 4名、作業療法士 1名、言語聴覚士 1名、社会福祉士・精神保健福祉士 1名)が所属している。

 当会には視覚障害をもって国家試験を受けた者が多数在籍し、就労のためだけでなく、就労の可能性を広げるために新たにチャレンジする会員も少なくない。
 今回、当会から過去に発表していない事例を集め、視覚を使った受験と音声を使った受験に分類し、それぞれアンケートを行い、若干の考察を加えた。本ポスターでは視覚を使った事例を紹介し、第2報では音声を使った事例を紹介する。
 また、当会からは第18回視覚障害リハビリテーション研究発表大会(2009年)にて、「視覚障害者における特例受験ケースレポート」をポスター発表している。今発表以外の情報希望の方は、そちらも参照されたい(ゆいまーる機関誌創刊号掲載)。
 尚、障害に配慮した受験方法をここでは総称して「特例受験」と表現する。


 2. 調査方法

 当会は、発足当初からメーリングリストとホームページを活用している。今回は、該当者にアンケート項目への回答の意思を確認後、同意が得られた方に、アンケートをメールで送り回答を求めた。


 3. 結果

 アンケートは次の19項目でなされた。

 (1) 試験名
 (2) 受験のきっかけ
 (3) 試験に対するイメージ
 (4) 視覚障害の程度(受験当時)
 (5) 障害に応じた配慮の申請
 (6) 行った情報収集
 (7) 受験方法
 (8) 配慮を受けた時の気持ち
 (9) 試験委員会とのやりとり
 (10) 当日持ち込んだ器具や使用した機器
 (11) 受験する部屋の環境の配慮申請
 (12) 持ち込みが許可された物
 (13) 試験の勉強方法
 (14) 試験を受ける上で困ったこと
 (15) この配慮は申請しておいて良かったと思ったこと
 (16) 今回受けた配慮の満足度
 (17) 配慮は妥当であったかどうか
 (18) 他に配慮してほしかったこと
 (19) 今後に対する思い

 アンケート結果を示す。
 結果は会員4名(A〜D)が今までに受験したケースについてまとめた。試験の内訳は、理学療法士国家試験1ケース(A)、公認心理師試験2ケース(B、C)、言語聴覚士国家試験1ケース(D)である。以下、各ケースについて記す。

 <ケース A>
 第20回 理学療法士国家試験(1985[昭和60]年4月)
 受験当時の視力は、右0.08、左0.04で、墨字を使用し、問題は拡大文字で読み、解答用紙に直接記入をした。弱視受験者は別室受験で時間延長はなく試験時間や受験会場は通常どおりに行われた。
 学校で事前に必要な配慮の確認と申請を行ってくれていた。追加で申請できると良かった配慮事項は、悪天候の時に使用できる電気スタンドを挙げていた。また時間延長も必要だったと回答していた。

 <ケース B>
 第3回 公認心理師試験(2020年12月・厚生労働省)
 今後の仕事について考えたことをきっかけに、公認心理師の試験を思い立った。試験前は勉強や長時間の試験に関して不安があったが、事前にインターネットや資格保有者からの情報収集を行い、その不安を軽減させた。
 時間延長、記入式解答用紙、補助具持ち込み、環境調整を2カ月前から行い郵送で申し込んだ。初回のみ電話でやりとりをしたが、その後はメールでのやりとりであった。その当時は配慮事項が認められるか不安な気持ちであった。

 当日は、調光式卓上ライト、延長コード、遮光メガネ、タイポスコープ2個(問題用紙と解答用紙)、2B・4B鉛筆の持ち込みが許可された。また、ブラインドを下ろした部屋で直射日光が当たらない場所で受験した。受けられた配慮には全て満足しており、妥当だったと感じていた。

 <ケース C>
 第4回 公認心理師試験(2021年9月・厚生労働省)
 公認心理師の資格の足がかりとして、臨床発達心理士を受験していた。試験自体はある程度想像がついたが、配慮事項を申請しての受験は初めてで、それに対する不安があった。数年前にその準備なく受けた精神科専門医試験は、問題を読むことに想像以上に時間を要した上、マークシートを塗るのが大変であった。受験勉強の方法については、テキストを読むことが大変なため悩んでいた。

 また、情報収集は、心理研修センターのホームページをこまめにのぞき、申請期日と手順、配慮事項申請手続き(受験本体の申請とは別の場所に送付)については前年度のものも参照していた。配慮を受ける上で抵抗は全くなく、むしろ配慮があることで安心していた。

 本当は音声で受験を希望したが、弱視のため文字受験で1.3倍の時間で足りるか不安だった。配慮内容は手引き通りで、時間延長1.3倍、問題用紙の拡大(A3、18ポイント)、記入式解答用紙への記入であった。また、環境調整については直射日光が当たらない座席(衝立あり)で、拡大鏡と眼鏡式ルーペを持ち込み、試験に臨んだ。また、会場までの道順が不安だったため、当日は家族に付き添ってもらった。

 総じて配慮を受けた事は肯定的に捉えており、配慮内容は妥当で、どちらかと言えば満足していたが、その一方、音声読み上げか電子媒体で自由度が高い拡大などができると良いとの回答であった。18ポイントでは文字の大きさが小さく疲労感が強いと感じていた。

 <ケース D>
 第15回 言語聴覚士国家試験(2013年2月・厚生労働省)
 視力は右0.02(視野狭窄あり)、左0.6(周辺視野欠損あり)で、左目のみコンタクトで矯正可能。事前の勉強は、学校で行う模擬試験の他アプリで言語聴覚士の問題を解くことも行った。配慮の申請は、専門学校の教員から提案があり、当初は配慮申請そのものについて強い抵抗感があった。

 配慮申請は、申し込みの数か月前より申請書を作成、字光式ルーペや単眼鏡、定規など持ち込む物の写真は申請書に添付した。当日は、別室にて1人で、面接官2名が在室する中で試験を受けた。時間延長はせずに試験に臨んだ。
 結果的に配慮申請をして良かったと思っている。国家試験に受かったことにより、今後の試験にも大きな自信になった。


 4. 考察

 2001年7月に、「障害者等に係る欠格事由の適正化を図るための医師法等の一部を改正する法律」が施行されたことから、視覚障害者がこれまで受験できなかった医師国家試験などの各種資格試験が受験可能となった。また法律の対象外の試験においても、近年視覚障害者に配慮した試験が実施されることが増えている。アンケートの結果、申請した配慮は全て受けられたものの、墨字の拡大受験より音声受験やデジタル機器を使用した受験を希望する声も聴かれた。一般的な人が文字を読む速度と弱視の人が読む速度には差があるためである。

 視覚障害者は、受験にいたるまでに各人の障害に合わせた学習方法をそれぞれで工夫している。そのため、健常受験者が自分の筆記用具を使うように、視覚障害者も普段の自分の道具を使えることが望ましい。点字や朗読による試験が受けやすい受験者がいる一方で、今後は音声パソコンやデイジーなどの最新機器を使う方法を選ぶ受験者も増えるものと思われる。

 視覚障害者に対して、同じ道具を使い、同じ受験方法を取ることが、一見フェアな試験と思われるかもしれない。しかし代替手段に対する能力は各受験者によってさまざまである。そのため受験方法については、画一的なものとするのではなく、各受験者にとって最適な方法が選択でき、受験に合わせるための新たなトレーニングの必要がないことが、真のフェアな受験環境ではないかと考える。
 また、国家試験という特殊な試験を受験するため、普段試験で配慮を受けていない場合も配慮申請を行う場合がある。その際は、配慮申請をする意義に加え、心理的なサポートも得られると前向きに配慮申請が行えると考える。


 5. まとめ

 このたび視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)は、会員数名に対し、最近受験した国家試験で受けた配慮とその内容についてアンケートを行い、その結果をまとめ報告した。今後も、各種資格試験において視覚障害をもつ方のチャレンジが続いていくものと思われる。このたびのケースレポートが、今後受験する方々にとって少しでも参考になれば幸いである。

 私たちがそれぞれの試験を受験できたのには、数多くの関係者や家族の協力、試験実施機関の方々のご尽力、そしてそのような制度に導いた先人の方々のお力のお蔭と感じている。最後にこの場を借りて、関係された多くの方々に謝意を表すとともに、今後に続く受験者に対しても適切な配慮が受けられることを願う。


 ◆ 問い合わせ先
  「視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)」
   メール info@yuimaal.org