【ゆいまーるにおける電子カルテ等基本調査の結果報告】 【機関誌第8号】  Top


                  小 林 茂 敏(こばやし しげとし)(茨城県)

T はじめに

 「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームが2022年9月に第1回会合を実施、医療分野でのデジタル化構想が本格的にスタートした。
 2023年夏、一部のゆいまーる会員より心配の声が上がった。現状の電子カルテは視覚障害者が利用するスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)には十分対応しておらず、医療DXが進められる中で視覚障害医療従事者の展望は開けるのか。会員各層にも今後の電子カルテ標準化における我々のアクセス確保の課題が周知されるようになった。

 役員、協力者で対策が協議され、周囲のご尽力を得て同年8月には要望書を厚生労働省関係部署に提出する運びとなった。今後、更に具体的な要望等を届けていくためには、ゆいまーる会員の電子カルテ等へのアクセスの現状を把握し、問題や課題を明確にする必要があるとの認識に至りアンケートを実施した。


U 調査の実施概要

 <アンケートの目的>
 @ 会員の電子カルテ関連の関わりの実態を把握すること。
 A @を踏まえ、今後の要望活動への参考資料として活用する。
 B 医療DX推進チームとのヒアリングが実現した場合、参加候補者選定等の参考資料とすること。

 調査期間: 2023年10月9日〜31日
 募集方法: メーリングリストにて募集、googleフォームへの回答(一部メール)
 調査対象者:視覚障害会員の中で、現役の医療・介護従事者、及び過去に電子カルテ環境の医療現場勤務経験者。


V アンケート項目と回答

【Q1】お名前をお書きください(ニックネーム可)。

 はじめに回答者名を伺い、対象者中28名の回答があった。

【Q2】現在の見え方について以下の中からお答えください。

  全盲       12名(42.9%)
  弱視(筆記困難)  6名(21.4%)
  弱視(筆記可能)  8名(28.6%)
  その他       2名(7.1%)
        合計 28名

 28名の回答者のうち全盲12名、ロービジョン14名とおよそ半々の割合だった。
 その他の2名については、見えにくさの主要因が視野狭窄や羞明であると推察される。

【Q3】プライベートでのPCの利用状況(視覚補助等)をお選びください。(複数回答)

  ア.スクリーンリーダー      20件
  イ.画面や文字の拡大       12件
  ウ.色の反転などコントラスト調整 11件
  エ.ルーペなどの光学レンズ使用   6件
  オ.PCのほかにタブレットも利用 14件
  カ.その他             1件

 全盲と重度弱視(筆記困難)、他2名もスクリーンリーダーを利用していた。
 見やすさへの設定等もほぼ全てのロービジョン者が対策を取っていた。

【Q4】医療・介護・心理分野での保有資格についてお答えください。(複数回答)

  ア.医師             15名
  イ.看護師             5名
  ウ.PT・OT・ST        6名
  エ.心理師・精神保健福祉士     4名
  オ.社会福祉士・ケアマネージャー  3名
  カ.MSW・医療事務職など     0名
  キ.その他             1名

 正会員全体の割合を投影して医師が多い。次いでリハ職。近年、新入会の伸び率が著しい看護師がそれに次いだ。

【Q5】現在の勤務先についてお尋ねします。

  ア.大規模医療機関
    (大学病院、地域中核総合病院など)での臨床 4名(14.3%)
  イ.小規模医療機関
    (クリニックや中・小病院など)での臨床   12名(42.9%)
  ウ.医療事務・MSWなど医療相談業務      1名(3.6%)
  エ.医療と教育分野などの兼務          0名
  オ.介護施設業務(リハ・ケアマネなど)     3名(10.7%)
  カ.福祉施設・教育機関など医療介護以外の業務  2名(7.1%)
  キ.退職・その他                6名(21.4%)

 圧倒的に小規模医療機関が多数を占めた。比べて大規模医療機関はまだ理解や配慮が得にくい環境を表しているのか多くはない。
 また、会のコミュニティ内では教育や福祉分野へ転職した話もよく耳にするが今回の回答者では少なかった。
 引退組の回答者が比較的多い結果だった。

【Q6】電子カルテPCへの視覚補助ソフト(スクリーンリーダーや画面拡大ソフト)の導入を考えたことがありますか。

  ア.検討しなかった。
    または考えたが相談には至らなかった。             7件(25%)
  イ.管理上の理由(セキュリティーの問題や、
    導入済の既存ソフトへの悪影響を懸念)で許可されなかった。   7件(25%)
  ウ.導入における予算や準備コスト面を理由に許可されなかった。   1件(3.6%)
  エ.使用するPCが複数にまたがるため、
    特定PCへの導入では対応できず断念した。            0件
  オ.インストールしたが全く機能しなかった。
    またはインストールできなかった。                0件
  カ.インストールしたが、動作不十分なため仕事には生かせなかった。 7件(25%)
  キ.インストールし、仕事に生かしている。              0件
  ク.非該当・その他                         6件(21.4%)

 設問のア.及びク.より、検討しなかった等の群は主に比較的視力が保たれている方々が該当する。
 その他の群では、介護関係や看護の特定業務などに従事している方がこれに該当しているようだ。
 スクリーンリーダー等の導入については、職場の担当SEからセキュリティー等を理由に許可されなかった群と、インストールはできたものの動作不安定だった群がともに7件ずつを占めており、情報の壁を感じさせる現状である。
 全回答を通して十分にアクセシビリティ確保が得られている人は確認できなかった。

【Q7】Q6でお答えになった電子カルテやスクリーンリーダー、または画面拡大ソフトの品名をわかる範囲でお書きください。

 回答にあった電子カルテについては、大手メーカーのもの、クリニック対応のものなどいくつか紹介された。
 介護用管理ソフトも一つ挙がっていた。また、利用できていないので不明という回答も複数あった。
 音声読み上げ機能にある程度対応しているとしてFTケアの紹介もあった。
 一方、導入を試みた補助ソフトでは、PC-Talker、JAWS、NVDA、ナレーターなど主たるスクリーンリーダーの名が挙がっていた。
 ロービジョン関係では、Windows標準機能で電子カルテを拡大表示はできるものの、画面切り替えがうまくいかないなどの不具合報告もあった。

【Q8】これまでの電子カルテ等操作状況をお答えください。(複数選択)

  ア.ほぼ自分で操作している            11件
  イ.看護師やクラークに操作を仲介してもらっている 17件
  ウ.紙カルテに貼り付けて記入している        2件
  エ.一部の操作のみ電子カルテを利用している     3件
  オ.複数の医療機関で電子カルテを利用している    2件
  カ.電子カルテに関わらない業務、
    または電子カルテを導入していない職場      9件

 多くの回答者が電子カルテとは別のPCに音声読み上げソフトを導入し、そこでの作成データはスタッフを介して電子カルテに反映させる手法が紹介されていた。
 また、視覚補助ソフトが十分には利用できない中、医師を中心に全盲者や重度弱視者は、代替手段も含め職場スタッフを介して電子カルテにアクセスしている状況がうかがえる。
 それ以外のロービジョン者は、文字サイズ等の調整をしながら円滑ではないものの自身で操作をしている模様。

【Q9】Q8で「看護師やクラークに操作を仲介してもらっている」とお答えになった方に伺います。
    そのような状況をどう思われていますか。

 主な意見としては、ほとんどの該当者が視覚障害医療従事者への配慮が及ばない現状への無念さを示し、且つ、自身で操作できれば作業効率の向上や、スタッフへの遠慮や負担の軽減が期待できるとしている。
 一方、次のような現状肯定的な意見もあった。

 現時点ではこの方法が一番スピーディーで間違いが少ない。分業と考えれば納得できる。
 サポートがないと仕事にならないので仕方がない。
 記載内容確認は必要だが、業務の効率化につながっている。
 一部の病院ですが、すごく助かります。
 これらの意見は、自身のPC操作スキルと視覚障害を振り返っての思いを表したものと思われる。

【Q10】視覚障害によって職務内容の変更、または職場の変更を経験された方にお伺いします。
    変更に至った一因として、電子カルテの操作困難はどの程度影響しましたか。

  ア.非常に影響した    3件(15%)
  イ.ある程度影響した   7件(35%)
  ウ.あまり影響しなかった 3件(15%)
  エ.どちらともいえない  4件(20%)
  オ.影響しない。その他  3件(15%)
           合計  20件

 エ.の「どちらとも言えない」は、情報アクセシビリティの困難さ以外の要因も絡んだものと推察される。
 オ.の「影響しない。その他」の回答者は介護分野や電子カルテにあまり関わらない部門のようである。

【Q11】Q10における変更を経験された方に伺います。
    職務の変更前と変更後の内容を簡単にお聞かせください。

  一般診療からロービジョン外来へ
  常勤診療から非常勤教育職へ
  内科から精神科へ、または健診医へ
  当直の免除などの職場内配慮
  電子カルテ未導入病院へ転職
  病棟看護業務から外来特定業務へ、または一般事務へ
  病院看護職を退職、大学へ進学し福祉職へ
  総合病院勤務から介護施設へ
  介護業務を退職、医療教育職へ
  リハビリ職場から相談業務へ
  専門職からリハビリ補助者へ身分変更


W 電子カルテ標準化等への意見

 「医療DX令和ビジョン2030」構築、電子カルテ標準化、その他関連事項について意見を募ったところ25件の発言があり、先に厚労省に提出した要望書の内容を裏付ける意見が複数確認された。
 視覚障害者が音声で入力し、自力で操作できる環境を構築してほしい。
 他の部署のカルテや情報が簡単に閲覧できるようなユニバーサルデザインを望む。
 電子カルテや介護ソフトを標準化する際には、計画の段階で視覚障害者がスクリーンリーダーや拡大ソフトでアクセスすることを前提に設計を考えていただきたい。

 また、今後の実践的課題として
 個人のPCのように、単にスクリーンリーダーがあればいいという問題ではない。晴眼者でも操作が十分にはできないほど画面が複雑化している。また、画像の読影をどうするかという大きな問題もある。
 アクセシブルな電子カルテがある程度実現しても、複雑な画面を使いこなすためには視覚障害医療従事者向けの操作ガイドやサポートが必要。
 その他


X おわりに

 ゆいまーる会員は、調査時点で正会員38名、協力会員73名で、そのうちアンケート対象者は約60名、回答率は5割弱であった。
 会員外でも、現役の視覚障害医療従事者や医療の仕事から離れた当事者は、看護職を主として相当数に上ると推察される。今調査では、一定数の視覚障害医療従事者が抱える職場での課題を概ね把握することができた。この調査結果が、ゆいまーるの声として医療DX対策チームへ届けるための有益な基礎資料となり、先の提出要望書の内容が実現することを願うものである。

 調査準備から回答に至るまで、協力・参加・見守りくださった会員各位に感謝の意を表する。
 最後に、以下の意見を紹介し報告とする。
「今回の標準化により我々も利用できるソフトの開発を切望しています。デジタル庁は、“誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化”をミッションとして掲げています。政  府一丸となって取り組まれることを期待しています。」

 以上