【会員より】    【機関誌第8号】   Top


     「ライナーノーツ『小さな役割』ができるまで」

              福 場 将 太(ふくば しょうた)(北海道)

 音楽と文芸は、目が不自由になった現在でも自分が自由に動き回れる世界としてかけがえのないものであり、その創作活動は僕にとってライフワーク、まさしく命を支える営みと言ってよい。
 2023年はゆいまーるが発足15周年を迎えたアニバーサリーイヤーであった。そのためこの会にちなんだ楽曲を作ってみたわけだが、ここではその制作小話を少々。

1.着 想

 『ゆいまーる』とはつながりや結び付きを意味する沖縄の言葉。僕もこの会に所属したことでたくさんの仲間たちとつながることができた。そして仲間たちとの語らいの中で感じたのは、みんなそれぞれの役割がある、役割を求めているということだった。
 『役割』… 改めて考えてみると素敵な言葉だ。役目を分割する、割り当てられた役目…そして、ふと僕は昔テレビで見た一つのドキュメンタリーを思い出す。

 舞台は海外。ある子供の手術に必要な薬が遠方の病院にしかなく、それを限られた時間内に届けるべく多くの人たちが少しずつ協力したという話だ。直接的に子供の命を救ったのは手術の執刀医だが、薬を開発した人、その所在を突き止めた人、持ち出す許可を取り付けた人、運んだ人、事情を知って融通してくれたタクシーの運転手や空港の係員などなど、バトンをつなぐようにみんながそれぞれの立場で少しずつ携わり、自分の役割を果たしたことで結果的に一つの命を救ったというのがとても印象的だった。
 そして次の瞬間、ゆいまーる、つながり、バトン、役割…これらのキーワードが化学反応を起こし、僕の脳内で着想のビッグバンが破裂したのだった。

2.作 詞

 視覚障害をもつ医療従事者には確かにできないことがたくさんある。しかし何もできないわけでは決してない。医療はチームで行なうもの、大切なのはささやかでも自分の役割を果たせるかどうかだ。それがつながっていってやがて誰かの役に立てばいい。

 そんな思いから作詞については、光を失っての絶望、仲間を得ての葛藤、やがて希望を見いだしての再生という多くのゆいまーる会員が体験した心の動きを主軸とし、そこに各々の役割を果たしてみんなで何かを成し遂げようというメッセージを込めてみた。

3.作 曲

 視覚障害をテーマにしていることから、やはりこの曲のイメージカラーは黒だと思った。最初は光を失った暗黒の闇、やがては新たな光やきずなが浮かび上がる美しい闇。
 曲にはキー(調)というものがある。これは完全に僕個人の感性なのだが、Gのキー(ト長調)は黒のイメージ。なので本曲はGのキーで作ることとした。目指したのは優しさと共にどこか勇ましさも感じられるミディアムバラードである。

 とはいえ、目が見えていた頃から楽譜の読み書きができない自分は専門的な作曲技法など持ち合わせていない。行なうのはフォークギターを鳴らしながら、浮かんだメロディを鼻唄でボイスレコーダーに吹き込んでいくという地味な作業である。ただこれも創作をする上での大きな不思議なのだが、作業していると昔作った未使用のフレーズがふと蘇り、それが今回の作曲にピタリとはまったりするのがとても楽しい。
 そんなこんなで10年越しのパズルのピースも加わりながら、少しずつ少しずつ本曲が出来上がっていった。

4.編 曲

 本来は詞と曲ができたらそこにどんな楽器でどんな演奏を加えるかという編曲を考えなくてはならない。それこそ学生時代ならリズムマシーンでドラムのフレーズを考えたり、エレキギターやベースのフレーズを考えたりもしたのだが、目が不自由になるとなかなかそれらを考えて多重録音する作業は難しい。いずれはまたそれもできるようになりたいと思ってはいるが、ひとまず今回はギター弾き語りの一発録音というシンプルな形で完成とした。

5.総 括

 偉そうにいろいろ書いてしまったが、ようするにやっていることは中学生の頃と同じ、ただドキドキワクワクに身を任せているだけだ。それに音楽は結局のところ聴いてくださった方がどう感じるかが一番重要。それが制作者の意図とは違うものだったとしても、それもそれで音楽の味わいだと思っている。

 完成した曲のタイトルは『小さな役割』とした。いつか、ゆいまーるの仲間たちの前で演奏する機会があれば嬉しいし、やがて自分自身がまた道に迷った時にこの曲を口ずさめば、きっと大切な気持ちを思い出すこともできるだろう。

 僕の医師免許は僕一人では何の役にも立たない。一人で大役は果たせなくても、チームの一員として自分の小さな役割を果たしながら、もちろん楽しむことも忘れずに生きていけたらと思っている。


    『小さな役割』♪

   (作詞・作曲・編曲:福場 将太)

  この暗さも このつらさも
  あの別れも あの報せも
  嘘ならば 夢ならば 何度も願った

  望みはない 居場所はない
  答えもない 時間もない
  無意味だと 無慈悲だと 何度も思った

  一人一人の小さな役割
  果たせたら 結べたら
  大きな結果が出る

  私にもある小さな役割
  果たせたら 結べたら
  誰かの奇跡になるのかもしれない

  出会う度に 集う度に
  笑う度に 学ぶ度に
  遂げたいと 逃げたいと 何度も迷った

  もう命が嫌で でも命が好きで
  生きてたら 生きてみたら
  バトンが回ってくる

  あなたにもある小さな役割
  果たせたら 結べたら
  誰かの奇跡になる
  誰かの命になるのかもしれない

  *視聴URL(トップページ掲載)
   https://micro-world-presents.net/cat_musics/22/
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