【ひと】(朝日新聞 2008年6月28日) 【機関誌】  Top


               視覚障害のある医療従事者ネットワークの代表

                 守田 稔(もりた みのる)さん(32)

 「それぞれ先の見えない道を歩いてきた。けれど、いくつもの道が交われば、きっと何かが見えてくる」
 今月8日、「視覚障害をもつ医療従事者の会『ゆいまーる』」が、東京で設立された。メンバーは医師7人と理学療法士4人。その代表に選ばれた。ゆいまーるは助け合いを意味する沖縄の言葉だ。

 内科医の父にあこがれ、関西医科大に進む。なのに5年生の時、神経系の病気「ギラン・バレー症候群」と診断された。自力で呼吸できず、生死の境をさまよった。2年後復学したが、手足の自由を失い、視力も悪化。教科書が読めなくなった。
 でも卓球部の仲間が車いすを押して授業や実習に付き添ってくれた。家族は総出で教科書をテープに吹き込んだ。400本を超える。トイレの中でも聞いた。03年、最初の受験で国家試験に合格した。

 大阪府守口市にある母校の病院の精神神経科に勤務する。専門は性同一性障害。対話を中心に診断する。
 「障害がある医師として、体と心の性が一致しない人の『生きにくさ』に寄り添いたいんです」。障害がもどかしくて落ち込むこともある。そんなときは列車に乗って走行音や車内放送を聞く。鉄道好きだ。

 仲間たちは最新の医学雑誌が読めないなど同じ壁と向き合う。会の当面の課題は医学情報の電子データ化。そうすれば音声出力や点字印刷が可能になる。壁は一つずつ、知恵を出し合って乗り越えていく。

                 文・清川 卓史 写真・日吉 健吾