専門家として働くための情報保障
藤 原 義 朗 (高知)
1.専門家として
視覚障害をもつ者の労働、とりわけ医療従事者については、医学文献をはじめジャーナル類、薬物情報やマニュアルなどが普段から学べると共に、いつでも取り出せる環境が必要である。また、学会や研修会資料の情報など必要なものは多岐にわたる。さらに、社会常識や一般教養が豊富でなければ医療は担えない。
しかし、視覚障害者に分かる媒体で発行されている物は一部である。活字文書を補う媒体としては点字、音声デイジー、テキストデイジー、カセットテープ、テキストデータなどがあるが、視覚障害になった時期と、利用の仕方によって使用媒体は違う。
医師は、医学部入学当時、晴眼もしくはそれに近い状態だったので、点字の堪能な会員は少ない。パソコンスキルでは吉金会員をはじめ堪能な会員は多いが、私のように苦手な者もいる。
2.発行媒体
◎ 医学書
東洋医学は、点字や音声デイジー、古い物はカセットテープなどで発行、もしくは点字図書館からの貸し出しがある。しかし、その他の専門的な文献は非常に少なく、今 読みたい、調べたいという文献はないに等しい。
◎ 医学ジャーナル
医学書院発行のものは、メディカルファインダーというUSBでデータ検索できる。既存の発行まで遡れることから一般の職場でも利用が増えている。価格はジャーナルの1割増程度である。尚、「理学療法ジャーナル」など一部は点字図書館から貸し出されている。但し、貸出期間が2週間ということでは、専門書の場合、用をなさない。データのダウンロードが望ましい。
3.研修会資料
研修会資料などは、たいてい墨字である。研修会の前か後に資料のデータ送信を申し込むが、例え送信してもらえても図や表は、テキスト化になりにくいPDFデータであることが多い。
4.拡大
弱視会員の中には拡大コピーや拡大読書器・iPadなどで拡大や色彩変化をさせ読んでいる会員も多い。
5.著作権法
法37条3項に特例として、点字図書館や盲学校では、著作権者の許諾を取らなくても音声情報で提供することが許されている。尚、点字化についてはもともと許諾はいらない。
さて、2009年に著作権法37条3項が改定された。
@ 視覚障害でなくても、例えばディスレクシアなど情報の入手に障害のある人も対象。
A 朗読テープだけでなく、テキストデータやデイジー類、絵文字や大活字など、障害に合わせた入手方法が可能。
B 盲関係施設でなくても、一般図書館や大学図書館、障害者施設と共に文化庁長官から指定を受けたNPOや一般団体まで情報提供が拡大された。
この法改正により、サピエ図書館がオープンし、ゆいまーる会員からもよく利用されている。
6.実績
ゆいまーるは、発足時より医学書誌情報のテキストデータ化を個人の要望により開始してきた。専門書から毎月のジャーナル類までおよび、ドロップボックスで管理している。点訳およびテキスト訳に携わっている協力会員は21名である。以下、作成実績を記す。
〈2008年6月〜2013年5月〉
1.点訳
@ 本 7冊
A 医療雑誌 57冊
2.テキストデータ
@ 本 77冊
A 医療雑誌 80冊
B 薬剤添付文書 40タイトル
C 重篤副作用疾患別マニュアル 75タイトル
D ガイドライン 26タイトル
7.情報の港
視覚障害をもつ医療従事者が医療を担えるよう、情報を保障する為に、著作権法37条の長官指定を受けるべく準備を進めている。
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【参考】文化庁のホームページより
(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/21_houkaisei.html)
平成21年通常国会 著作権法改正等について
3.改正の概要
(3)障害者の情報利用の機会の確保のための措置
障害者のための著作物利用に係る権利制限の範囲の拡大
障害者のための著作物利用について,権利制限の範囲が,次のとおり拡大されました。(法第37条第3項,法第37条の2,令第2条,令第2条の2,規則第2条の2関係)
[1] 障害の種類を限定せず,視覚や聴覚による表現の認識に障害のある者を対象とすること
[2] デジタル録音図書の作成,映画や放送番組の字幕の付与,手話翻訳など,障害者が必要とする幅広い方式での複製等を可能とすること
[3] 障害者福祉に関する事業を行う者で政令で定める者(視聴覚障害者情報提供施設や大学図書館等を設置して障害者のための情報提供事業を行う者や,障害者のための情報提供事業を行う法人等のうち文化庁長官が定める者)であれば,それらの作成を可能とすること。
ただし,著作権者又はその許諾を受けた者が,その障害者が必要とする方式の著作物を広く提供している場合には,権利制限の対象外となります。
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