【職場介助者助成金制度の問題点とゆいまーる会員アンケート】     【機関誌第4号】     Top



 「職場介助者助成金制度利用上の問題点とゆいまーる会員を対象としたアンケート結果の報告」


                    生 駒  芳 久(和 歌 山)


 1.はじめに

 この調査報告のきっかけは、私自身の再就職に際して、できれば障害者雇用納付金制度に基づく「職場介助者の配置または委嘱助成金」を利用できないかと考えたからです。
 私自身、このような制度があることを知っているくらいで、詳しくは知らず、対象職種や助成内容に制限があることも知りませんでした。

 私たち医療関係で働く視覚障害者は、現場では何らかのサポートを受けながら仕事をしています。私も、公立病院の職場ではこの8年間、専任の介助者のサポートを受けて精神科臨床医として働いてきました。

 今回、民間病院に再就職するに際して、この制度の助成金を受けたいと考え、窓口に問い合わせを行ったり、他の団体の厚労省との交渉内容の一部にも取り上げてもらいました。しかし、精神科医をはじめ視覚障害をもつ医療従事者がこの助成金制度を利用しようとしても「事務職ではないので『委嘱』の対象とはなるが、『配置』の対象ではない」とのことでした。

 この助成金制度において、『配置』とは、必要なサポートを常時受けられるように介助者を配置することをいい、『委嘱』とは、必要な時だけ限定的なサポートが受けられるように業務を委嘱することをいいます。
 私自身は、この4月からは民間の新しい職場で、「医療秘書」という形でサポートを受けることにより臨床現場で仕事をすることができています。助成金制度は利用できていません。


 2.調査対象、期間および方法について

 2015年4月から5月にかけて、ゆいまーるメーリングリストを通じて「職場介助者制度に関するアンケート調査」を実施しました。
 回答者数 15人(正会員12、協力会員3)で、以下の結果でした。


 3.アンケート内容と結果

 『職場介助者制度』
 回答いただいたゆいまーる会員のほとんどは知っています。既に制度を利用している会員もいるし、利用を希望しながら利用できていないものもいます。

 『職場でのサポート内容』
 ほとんどが読み書きに介助を必要としています。一方、移動の介助は読み書きよりは少ない。その他の介助としては、パソコンの操作、表情や状況の説明などが挙げられています。

 『仕事の上でサポートを必要とする時間』
 「配置」に相当する「1日に数時間以上」の介助を必要とするものが半数以上を占める。また他のものも、「委嘱」に相当する「週に数時間」の介助や、なんらかの介助を必要としています。

 また、日常臨床現場においては、特定の介助者以外からのサポートを受ける場面がいろいろ生じてきます。例えば、

 「『読み』については、検査データ、画像所見、医療機関からの紹介状・受診後の返事などは病棟医師・看護師長、あるいは主任など適宜に対応、『書く』については、所定の用紙を使う場合以外、生命保険の診断書、老人保健施設などへの紹介状などは担当医師が記載するように分担している。」

 「常勤先の病院ではマイペースでできるので委嘱、しかし非常勤先では90分で大量の情報処理を要求されるため、看護師さんに。『読み』については私が得たい情報を探して読んでいただく。『書く』については記録の代筆をお願いしている。」

 など、その場その場でサポートを受けられるかどうかが、仕事のしやすさと直結します。

 『就労の継続』
 半数以上の人が、視覚障害のためにできないことが増えたり、サポートしてくれる人が少なくなったり、周囲の理解が得られにくくなると、仕事を続けることが困難になると感じています。また、人間関係のこじれも就労継続を妨げる原因だが、それは視覚障害と関連して生ずることもあります。

 『職場での困りごと』
 なんとかやっていける、仕事がしやすいとするものが半数以上を占める一方で、時々困る、以前から困っているなど困難を感じつつ仕事をしている人が半数いることです。

 全体を通してのコメントとして、

 「通所リハ(デイケア)で仕事をしている。現在、私はこの制度を利用していますが、事務職ではないので、助成金は月々2万円(委嘱)です。」

 「精神科医は事務職ではないので、配置の対象ではなく委嘱しか利用できないと言われた。」

 「同僚がいるではないかと言われることもありましたが、職場にとっての利点を話して、ようやく昨年4月から導入してもらいました。」

 「以前より介助者制度について、数回資料を用意し管理部に相談したが、『手続きがやっかい』との理由で制度適応にならなかった。」

 「当初の採用条件では、@ 通勤の援助(職員が送迎) A 事務的作業の援助者を配置するということでした。当然、その費用の一部は私の医師としての給与が軽減されていたようです。当時はただ勤務できるというだけで安堵していました。」

 「もっとごく普通に広まれば視覚障害者の職域が『三療』または『一般事務』以外にもできることが広がるように思います。」

 「病院の勤務医は、サポートのスタッフを付けてもらえるが、個人開業となると、自分自身の診療サポートの他、医療事務・税理事務関係のサポートも必要となる。個人病院にこそ、そういったサポートがむしろ必要であると痛感しています。」

 などのご意見がありました。


 4.考察

 今回の調査で、2人が職場介助者助成金制度を利用していることがわかりました。ひとりは、相談員として事務職という位置づけがなされ「配置」の対象となっています。もうひとりの理学療法士は、非事務職ということで「委嘱」しか受けられていません。
 また、理学療法士や医師は、職場では「配置」相当の介助を受けながら、申請しても「委嘱」の対象にしかならないと言われ、申請するには至っていないことがわかりました。

 また、診療所や自営の場合には、別の困難を抱えることになります。例えば、介助者が家族である場合には、介助者の老齢化の問題が付きまといます。診療所など当事者が経営者である場合には、今の制度では自分で介助者を雇わなければなりません。
 しかし、医療分野からのこの助成金制度に対する要望は、これまで少なかったのではないでしょうか。職場介助者は、視覚障害者が医療分野で働くための有効な手段です。

 この助成金制度を実情に則したものにするためには、現状や事例の報告を重ねていくことが肝要だと思います。
 この報告がそのひとつになれば幸いです。


 * 2015年5月、品川区の『きゅりあん』で行われた第8回 ゆいまーる通常総会での午後のプログラム4「職場介助者制度 〜 働き続けるために 〜」では、司会と職場介助者制度の概要・歴史を大里医師が、制度利用に関する問題点や会員に対するアンケート結果の報告を生駒が担当しました。その時の生駒の発表内容に一部手直しを加え、ここに掲載させていただきます。