【佐藤正純医師 関連】   【機関誌第6号】     Top


     ■ 日本経済新聞 2019年6月12日 ■

       交 遊 抄 『ビッグバードの再起』


                  山 下 雅 史(やました まさし) (ローソン銀行社長)


 中学高校からの友人は、一生の付き合いになるから大切にしろ。中学に入ったときの父親の言葉だ。意味が分かるまでに、ずいぶん時間がかかったが、実際その通りになった。佐藤正純君とは、中学・高校を通じて剣道部で過ごした。稽古の後に近くの牛乳屋で、牛乳とパンをかじりながら、小林秀雄なんかを論じた。

 夏の合宿、冬の寒稽古も一緒に乗り切った。背が高くて人の気持ちをくみ取れる彼は、セサミストリートのビッグバードみたいなやつだった。

 彼は医学の道を進み、脳外科の医師として横浜市の病院で勤務していた。まさにトップスピードで走っていたときに、スノーボードの事故で、視力、記憶と歩行機能に障害を負った。命を取り留めただけで奇跡と思われた状態だったが、その後6年の時間をかけ、パソコンなども使って社会復帰を果たした。医療の現場にこそ戻ることはないが、後進の教育や、福祉施設の健康相談で、多くの人にかかわりを持っている。

 年に4回の高校同期の飲み会にも、白いつえを頼りにここ数年は皆勤だ。仲間が話す話題にも、彼独自の観点からアドバイスをくれる。最近では健康に関する彼の話に、皆が耳を傾ける。自身に起きたことを受け入れ、再度立ち上がる。そんな姿に私も含め、周囲がはっぱをかけられている。