福 場 将 太(ふくば しょうた)(北海道)
この度、特別企画として正会員のみなさんにアンケートにお答えいただきました。ここにその集計結果を掲載いたします。『ゆいまーる』のことをまだよくご存じない方が興味を持っていただくきっかけになれたら嬉しいです。また、生き方に迷っておられるどなたかにとって、正会員の声が小さな道標になれたらと願っております。
今回は、医療従事者であり視覚障害の当事者でもある正会員の気持ちについての質問を中心としました。みなさん、勇気ある回答を本当にありがとうございました。以下に設問と回答結果、講評を記します。設問6までは回答は1つでお願いしました。
実施期間 2021年(令和3年)11月〜2022年(令和4年)1月
回答者数 27名
問1 ゆいまーるとどのように出会われましたか?
A 会の立ち上げから参加している 8名
B 知り合いの会員から誘われた 4名
C ネットや新聞などで記事を見た、
人伝に話を聞いた 12名
D 自分で情報を探していてたどり着いた 3名
[講評]
まずは、ゆいまーるとの出会いからお尋ねしました。
添えていただいたコメントを拝見すると、「存在は知っていたけど入会までには時間が空いた」「サピエ図書で機関誌を読んだことが入会のきっかけ」という方もおられました。
問2 ゆいまーるに出会う前、視覚障害をもちながら医療に携わることに不安はありましたか?
A とても不安だった 14名
B 少し不安だった 6名
C あまり不安ではなかった 3名
D ほとんど不安ではなかった 4名
[講評]
AとBを合わせると約74%の正会員が少なからず不安を感じていたという結果になりました。
不安の内容としては、「もう医療の仕事を続けられないのでは」「医師法に違反しているのでは」といったコメントがありました。業務がこなせるかどうかということに加え、ブラック・ジャックじゃない僕らはやっぱり法律のことも気になります。医療資格の中には理学療法士のようにもともと視覚障害が欠格事由になっていないものもあれば、医師のようにかつては欠格事由だったのが後年撤廃されたものもあり、そういった歴史的な背景も不安の大きさに影響を与えているのかもしれません。
問3 ゆいまーるに出会ってから、視覚障害をもちながら医療に携わることに不安はありますか?
A とても不安だ 5名
B 少し不安だ 8名
C あまり不安ではない 9名
D ほとんど不安ではない 5名
[講評]
問2の結果ではAの「とても不安」と答えた方が約52%と突出していたのに対し、問3でAと答えた方は約19%に大きく減少し、選択肢ごとの分布が小さくなっていることがわかります。理由は人それぞれと思いますが、ゆいまーるへの入会が不安を軽減するのに一定の効果を示しているといえるのではないでしょうか。
問4 視覚障害をもつ医療従事者である自分を認めてあげられていますか?
A 誇りに思っている 11名
B 少しは認めている 12名
C あまり認めていない 2名
D 全く許せない 0名
無回答 2名
[講評]
昔から「医療者は心身ともに健康で五体満足でなければならない」という完璧主義の意識が強いこの業界。満足な仕事ができなくなると、自分を許せなくなる人も多いと聞きます。しかし、ゆいまーるの正会員はAとBを合わせると約85%が自己肯定感を持てています。これってひょっとしてすごいことでは?
問5 職場で自分の視覚障害を周囲に伝えていますか?
A 積極的に伝えている 17名
B どちらかというと伝えている 6名
C どちらかというと伝えていない 3名
D ほぼ伝えていない 0名
無回答 1名
[講評]
障害のカミングアウトは大きな試練。そんな中で正会員のみなさんは伝える姿勢をとっている方が多いという結果でした。「スタッフには積極的に伝えて患者さんに対しては必要に応じて伝える」「晴眼者のように振る舞っていたら人や物にぶつかって叱られた」「誤解されないためには伝えた方がいい」「患者さんとの信頼関係はまた別の問題」といったコメントがありました。
問6 自分の視覚障害が治せるとしたらどうしたいですか?
A 絶対治したい 16名
B 治してもいいかもしれない 10名
C 治さなくてもいいかもしれない 1名
D 治したくない 0名
[講評]
Aが最多の約59%で、「孫と遊びたい」「景色の色彩が見たい」と仕事以外の理由を書いている方もおられました。BやCを選んでいる人もいたのが興味深いところです。
問7 ゆいまーるに入ってよかったなと思うことは何ですか?(複数回答可)
A 仲間ができる・居場所ができる 26名
B 役立つ情報や知識が得られる 22名
C 仕事に前向きになれる・人生に張りができる 17名
D その他(ご自由に書いてください) 11名
[講評]
ほとんどの正会員にとって、仲間や居場所の存在というのは大きなもののようです。コメントを一部抜粋しますと、「元気をもらった」「安心感がある」「医療従事者として働く先輩方と積極的につながることができた」「職域拡大や進路について相談できる」「みなさんが頑張っている姿を想像すると自分もまだまだやれると思えるから不思議」「みなさんの存在そのものが支えです」など、仲間からパワーをもらっている方が多かったです。
また、「会に貢献できるのが喜び」「知識の提供や共有の喜びがある」などのコメントもあり、自分が仲間にパワーを与えられるのもゆいまーるの味わいのようです。
他にも、「豊かな人間性の方々の心に触れることができて感謝」「自分はまだ中途半端に見えているため仕事上で自分を許せない部分があり、全盲で働いている方々は明るく前向きだと思う」「最近、ゆいまーるの会での自分の存在感があまり感じられなくなり、参加してもしなくてもいいかなと思うようになっています」といった、人と人とが触れ合うからこそのいろいろな思いをコメントされた方もおられました。
【総 括】
最後に へっぽこ精神科医の考察を少々。うつ状態、特に自殺にもつながるような深刻なうつ状態を引き起こす要因として、喪失感、孤独感、疎外感、自己の無価値感、罪業感などがあります。もっとわかりやすい言葉で言うと、大切なものを失ったがっかり感、みんなの輪に入れない仲間外れ感、迷惑ばかりかけているお荷物感といったものです。
正会員のみなさんは、視力という大切な健康を失い、周囲と同じようには働けず、助けてもらわないと生活できないという点では、本来 がっかり感・仲間外れ感・お荷物感を強めてうつ状態に陥ってもおかしくない要素をいくつも持っておられます。にもかかわらず、多くの方が会合では明るさやユーモアを見せ、今回のアンケートでも前向きさを見せているのはどうしてなのでしょう。
その一つには仲間の存在、そしてもう一つにはやはり医療従事者であるという点が大きいのではないかと僕は考えます。確かに視覚については障害者としてたくさん助けてもらっている、それでも自分は医療従事者として少しは役に立てているのかもしれない。その意識があるからこそ、みんな元気な心を失わずにいられるのではないでしょうか。
ゆいまーるは障害に苦労する当事者の会であると同時に、診療技術の向上を目指す医療者の会。時には当事者、時には医療者。支えられたり支えたり、その両面からパワーを得ながら、僕らはがっかり感、仲間外れ感、お荷物感に負けずにいられるんだと思います。もちろんそれが全ての理由ではなく、まだ気付いていない見えないパワーの源がこの会にはたくさん隠れているように僕は感じています。
問4で、正会員の多くが「視覚障害をもつ医療従事者である自分を認めている」と答えています。その一方、問6ではほとんどの正会員が「視覚障害を治したい」と答えているのが、なんだか素直な感じがして僕はホッとしました。当事者とか医療者とかは仮の姿、みんな正体はただの一人の人間ですもんね。
今回のアンケート結果は、ゆいまーるの貴重な研究データとして後世に伝えていきたいと思います。初の試みでしたが、みなさん、本当にご協力ありがとうございました。
(文責 福場 将太)