代 表 守 田 稔(もりた みのる)(大 阪)
2008年6月、視覚障害をもちながらいろいろな医療関係職に従事する者が集まり、情報や経験の共有、交流を深めることを主な目的に、『ゆいまーる』が発足しました。発足当初は20名足らずだった当会も少しずつ輪が広がり、16年経った現在、会員は正会員、協力会員含めて100名を超え、何らかの医療資格・福祉資格を持つ視覚障害当事者はそのうちの60名を超えました。
2020年3月にWHOがパンデミックとみなせると表明した新型コロナウイルス感染症は、4年経った今も流行を続け、この原稿を書いている2024年2月時点でも第10波に入ったと言われています。コロナ禍となり、ゆいまーるではリアルな集まりは2020年3月を最後に休止し、以降Zoomを使ったオンラインでの交流を行ってきました。
2023年5月の新型コロナウイルス感染症の5類引き下げに伴い、ゆいまーるでも同年5月28日の第15回通常総会からリアルな集まりをハイブリッド型で再開しました。これからはコロナ禍で培ったオンラインでの交流と、リアルな集まりそれぞれの利点を生かして活動していければと思います。
今回は第8号の「八」にちなみ、末広がりに未来に向かった話を書きたいと思います。
2022年5月、自由民主党政務調査会より「医療DX令和ビジョン2030」と題した医療のDX化・医療情報の有効利用を推進するための提言がなされました。これは医療現場におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、日本の医療分野における情報のあり方を抜本的に改革するためのものです。
この施策は、1.「全国医療情報プラットフォーム」の創設 2.電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及) 3.「診療報酬改定DX」と、3つの取り組みを柱としています。
それでは私たち視覚障害者と電子カルテの関係は、これまでどうだったでしょうか? 残念ながら視覚補助ソフト(スクリーンリーダーや画面拡大ソフト)をインストールして、仕事に十分生かせている人はほぼいませんでした。
視覚障害をもった医療従事者が電子カルテにアクセスできない問題は、2003年に私が医師になったときから存在し、現在も変わらず残っています。そして、今のままではこれからの未来も現状が続いていくかもしれません。
そこで、ゆいまーるでは2023年7月、医療従事者の中には私たちのような視覚障害者もいて、電子カルテにアクセス確保を希望しているとの声を厚生労働省に伝えていくことを決めました。
同年7月23日、第44回関西ゆいまーる勉強会(オンライン開催)の情報共有コーナーにて、合同会社フロッグワークス代表の岸本将志氏に「医療DX令和ビジョン2030」についてレクチャーしていただき、今後の方針の手掛かりをご教授いただきました。そして小林茂敏理学療法士、福場将太医師の力を借りて、厚労省に届ける要望書を作成しました。この要望書は同年8月、国際医療福祉大学大学院の大熊由紀子先生のご助言・仲介で、加藤勝信厚生労働大臣と、内山博之医薬産業振興・医療情報審議官のお2人にお送りすることができました。本誌に要望書全文を掲載いたします。
また同年10月には今後の要望活動の参考資料にすべく、先の小林が当会会員の電子カルテ関連の実態を把握する目的でアンケート調査を行い、それをまとめました。結果は本誌掲載だけでなく、広く知っていただくために今後視覚障害関連の学会で発表することを予定しています。
2001年に欠格条項の法律改正が行われたおかげで、視覚障害があっても種々の医療資格を取得できる可能性が生まれ、また視覚障害を負ったからといって資格を失うことはなくなりました。しかし仕事に就く、仕事を継続するためにはさまざまな障害があるのが現状で、電子カルテのアクセス問題もそのハードルの1つになっています。
私たちは、視覚障害者が電子カルテを使えないことを理由に就職を断られないこと、働いてきた方が離職させられないことを願っています。ゆいまーるでは、視覚障害者も何らかの方法で電子カルテが操作できるようになるよう、声を出し続けていきたいと思います。