【私を支えてくれるIT機器】     【機関誌第4号】     Top



                      宮 崎  貞 之 介(熊 本)


 最近のIT機器の進化は障害者にとって大きな補助になっているようです。
 私は平成10年に消化器内科の診療所を開設しました。内視鏡や超音波診断機器を使用していましたが、視覚障害を発症し、進行するにつれて診療内容を徐々に縮小してきました。しかし、医師一人での診療には限界があり、患者さまに迷惑がかからないようにと思い昨年11月に閉院しました。今後は、私なりにできることを模索して何らかの形で医療に関与していこうと考えています。

 視覚障害が出現してきて医療の幅は狭まりましたが、パソコンを含むIT機器の存在が色々とカバーしてくれたことは事実です。「ゆいまーる」に入会する前に下川先生にお話を伺い各種アイテムを教えていただいたことも手助けになりました。
 パソコンを含めたIT機器の進歩にはめざましいものがあります。理論として詳しいことは理解できなくてもメール交換は日常茶飯事ですし、ネットショッピングやネットオークションも頻繁に行われています。

 私がパソコンを使い始めたのは25年以上も前でした。具体的に何がしたくて購入したのかは覚えていませんが、友人に勧められて年賀状でも書ければ便利かなといった軽い気持ちだったような気がします。その時に学習したパソコンの知識が、視覚障害者になった現在、情報の収集・伝達に役立つとは思ってもいませんでした。

 当時は、まだWindowsやインターネットは開発されておらずMS-DOSというオペレーティングシステム(OS)でアプリケーションを起動させて、ごく一部のマニアが電話回線を使ったパソコン通信でデータのやり取りを行っていました。アプリケーション毎に5インチ・フロッピーディスク(FD)を入れ替えてワープロや表計算ソフト等を起動させて使っていましたので煩雑で時間もかかっていました。それまで趣味らしきものを持たなかった私がなぜか夢中になりパソコン関連の書籍を読みあさってのめり込んでいきました。

 その後、パソコン本体の記憶媒体が3.5インチFDを経てハードディスクへと進化しつつ、ディスク容量や処理速度が加速度的に進化しました。MOやZIPなどの記憶媒体も出現しましたが、大きさなどから市民権が得られず、USBフラッシュメモリーや SDカードがコンパクトで持ち運び可能なため主流になってきました。OSがWindowsになってからは更に処理速度や使い勝手が飛躍的に向上しました。アプリケーションもWindows対応のものが多種多様出現し、価格も低下しました。MS-DOS時代はパソコン通信も低速でしたが、インターネットが普及するにつれてどんどんと高速になり、日常生活の一部分と言えるくらいにまで浸透してきました。

 Windowsは3.1から現在の10まで大きく進化してきました。すべてのバージョンのWindowsを使ってみましたが、私の視覚障害が出現して進行していた時はWindows XP、Vista、7(セブン)の時代でした。WindowsはMS-DOSと異なり画面表示のカスタマイズが簡単でしたので背景を黒色、文字を白色にして文字サイズもその時の状態で大きさを変更して使っていました。アプリケーションもOCRソフト、スクリーンリーダー、「今日の治療指針」という医療関係ソフトを利用していました。

 特に「今日の治療指針」の中の治療薬マニュアルはとても診療に役立ちました。
 また、Microsoft Accessで紹介状や職員の給料明細書なども作成して使っていましたが、視覚の低下とともに使いづらくなってきたのも事実です。インターネットに関してもスクリーンリーダーで画像以外はほぼ読んでくれますので情報収集には困りません。現時点ではWindowsの出現によるIT機器の進歩が視覚障害者にとって有益であったと思います。

 デジタルIT機器が便利であることに異論はないと思われますが、欠点は必ず各種機器が必要であるということです。たとえば音楽CDを整理するときは音声を記録したシールを張ったり、アイフォン等でラベルの文字を読み取ったりできると聞きました。しかし、それにはコストもかかるしアイテムがないとどうすることもできません。

 デジタル機器の操作方法の学習は以前より簡単にはなりましたが、障害者にとっては健常者に比してより負担がかかることは否めません。しかし、その機器が障害を多少なりともカバーして生活や仕事に有用であれば頑張って習得する意義があると思います。IT機器の進化は健常者はもちろん、障害者にとってもありがたいことだと感じています。

 今後、どのようなアプリがあれば便利かなと考えてみました。OCRソフトで認識した文章内に含まれる表やグラフを解説してくれるものや、体の正面2メートル以内に段差や壁面、障害物の存在を感知してくれるものなどが開発されると便利かなと思います。それに近いアプリはすでに存在するようですが、機能的にはまだ不十分なようです。

 視覚障害者になって日が浅い私は、単独行動はまだできませんが、パソコンなどを使うことで仕事や日常生活に思ったより不自由はありません。当然、家族や周囲の方々の援助は必要であり、感謝しています。できるだけ単独で行動できるように努力もしますが、便利なアイテムが開発されることを待ちたいと思います。