【ここら辺りで途中下車…!(第二次人生回想録)】     【機関誌第4号】     Top



                      宮 下  治(兵 庫)


 平成27年という年は、私が脳腫瘍で中途退職してから20年目となる節目の年でした。
 前半は虚脱と混迷と治療の10年、後半は開院後の修行の10年でした。「十年一昔」と言われますが、この1月で丸9年、漢方・鍼灸・マッサージの知識と経験をベースに、地域の皆様方のお役に立ちたい、との思いで東洋医学診療に取り組ませていただいたことになります。

 漢方薬服用による内治法と手技療法による外治法の併用で治療効果が倍増したこと、こころが原因の症状にマッサージが劇的に効いてその効果に驚かされたこと、鍼(はり)やマッサージが身体の痛みや凝り、痺れや冷えなどには非常に効果があることなど、臨床を通して貴重な体験ができました。

 当初は鍼灸院を開院予定でしたが、「医師免許があるなら、幅広い診療ができる」とのアドバイスで発車間際に急遽、路線変更をしました。そのために、病気療養中の10年間の目まぐるしい医学の進歩に置いてきぼりにされぬよう、遮眼帯をかけられた馬車馬の如く、移り行く窓外の風景を楽しむ余裕もなく、暇さえあれば新しい情報の獲得の為に多くの文献との格闘の日々の連続でした。

 その間、医療法の改定で在宅介護政策重視となり、患者さんの流れも変わり、少なからず影響も受けました。更に、平成25年秋、レセプト電算化が義務化され、新たな設備投資の必要性に迫られ、サポーターが高齢でいつまでサポートできるかどうかで二の足を踏みました。

 個人開業の医院では医師自身の診療サポート、医療事務のサポート、経理事務のサポート、税理事務のサポートが必要です。雇用すると大変な経費が上乗せされます。診療領域が極々限られ、点数の低い処置しかできない医院にとっては限りなく厳しいのが現状です。今まで続けてこられたのは、診療以外のすべてを担っていた身内のサポートがあったからだと思います。

 この4月には医療法の改定も行われますし、それに続いて専門医制度も大きく改変されるようです。それらにいかに対応していけるかということを考えると、仕事を続けるのが困難になるなあ、と思ったり、その一方で、症状に長く苦しめられてきた患者さんたちが治療の効果が出て元気になって喜ばれる姿に接すると「まだまだ辞められないなあ」と思ったりの繰り返しで、仕事を続けるべきか、辞めるべきか迷いに迷っていました。

 前向きに考え、もっと他にやれることはないかと介護施設などとの連携を検討、模索していた矢先に、昨年の特定検診で大腸がん発症が明らかになりました。電車やバス通勤のストレスもなく、おんぶにダッコのサポートを受けながらの診療だったにもかかわらず、生来、楽天家の私には思いもよりませんでした。身体は確実に負担を負っていたことを痛感させられました。
 
 いつ消えてもおかしくない状況から始まった零細クリニックでしたが、この9年間を振り返ると、よく続いたと思います。それは私の疾病や障害を通して直面させられた無念さが背中を押し続けたことや、症状の苦しみから解放されて喜ばれる患者さんの笑顔のお蔭です。地域の皆様の健康に少しでも関われたことに感謝しています。自分を顧みることがなかなかできなかった9年間、養生してたまった疲労としがらみを発散したいと思います。

 入院を機に、ここら辺りで途中下車して、あちこち道草しながらしばらくのんびりと静養したいと思います。次にまた乗る路線が見つかるまで…