藤 原 奈 津 子(兵 庫)
私には夢がありました。
それは、小児科の看護師として、病気や障害を持つ子供と、その家族と共に歩んでいくという夢です。私は、子供の頃から将来は小児科の看護師になりたいと考えており、無事にその夢をかなえることができました。自分の仕事が大好きで天職だと思っていました。
そして、生涯、小児科の看護師として生きていくという夢を、当たり前のようにかなえることができると考えていました。しかし、現実は少し違っていました。私は、一度、この夢をあきらめました。それは、自分自身が視覚障害者となり、看護師として歩んでいくことが難しいと感じたからです。
看護師10年目の春、眼疾患を発症し、唯一見えていた左眼の視力が徐々に悪くなっていきました。休職し、手術などの治療を行いましたが、12月に仕事に復帰する頃には重度の視覚障害となっていました。復職し、約4カ月間働くことができましたが、結局は退職しなければなりませんでした。
この1年は自分の人生の中でとても大きなものであり、つらいものでした。この1年の自分の気持ちを振り返ってみようと思います。
休職中、私は1日でも早く看護師の仕事に戻りたいと願っていました。一方で、視野障害と視力障害を持つ自分が復職することは、もう難しいのではないか、復職は無理と職場から言われるのではないかという不安がとても大きかったです。しかし、職場の上司は無理と決めつけるのではなく、復職したいという私の気持ちを尊重し、私が復職できる方法を一緒に考えてくださいました。
この時期は、どんどん視力が落ち、見えにくいという現実に直面し、自分はこの先、どのように生活していけばよいのだろうという不安が大きかったです。自分ではもう何もできないのではないかという悲観的な思いと長い入院生活で、社会の中に戻っていく勇気がなかなか持てなくなっていました。そんな自分を支えてくれたのが、もう一度仕事に戻りたいという思いでした。
もし、仕事に戻るという目標がなかったら、そして、それがかなえられていなかったら、きっと自分の殻に閉じこもって社会に出ていくことができなくなっていたのではないかと思います。そのため、復職に向けて前向きに考えてもらえたことは大きな精神的支えでした。
また、私はこの時期に偶然、視覚障害者の支援をしてくださる団体につながることができ、その団体の方にも復職に向けて様々な支援をしていただくことができました。たくさんの人に支えていただき、夢や目標を持ち続けられたからこそ、見えにくくなっていく一番つらい時期を乗り越えることができたと思います。
退院後の4カ月間、病棟のスタッフや上司、支援団体の方にたくさんのサポートをしていただき、看護師として仕事を行うことができました。もう一度看護師として働けたという喜びはとても大きなものでした。
しかし、実際の仕事の中では、復帰できた喜びだけではなく、つらいと感じることも多かったです。今まで当たり前のように行えていたことが困難になっている場面に直面し、できないという現実に大きな不安や焦りを感じていました。また、自分ではできているつもりでも、見えにくいことで安全に行えなくなっていることを指摘されたこともありました。できないことだらけで、仕事が楽しいと思えずどんどん自信を失っていく毎日でした。
それでも、逃げ出さずに仕事を続けたいと考えることができたのは、夢をあきらめたくないという思いがあったからではないかと思います。視覚障害者となった自分だからこそできることもあるはずだという思いと、障害を持つ自分が夢をあきらめずに看護師として働き続けることができれば、同じように病気や障害を持つ子どもたちが自分も夢をあきらめなくていいんだ、と思ってくれるのではないかと考えていたからです。
退職は、自分から望んだものではありませんでした。本当はまだ働き続けたいという思いが強かったのですが、難しく、あきらめるという形で退職しました。大好きだった仕事をあきらめるということは、趣味が仕事であった私にとって、生きがいを失うことであり、とてもつらい日々でした。今まで当たり前のように仕事があり、やらなければならないことがあるということが、とても幸せなことなんだなと思いました。仕事という社会とのつながりを失い、自分だけが社会から取り残されたような気持ちにもなっていました。思い返すとこの頃が一番つらかったと思います。それは、夢をあきらめ新たな目標を持てなくなっていたからだと思います。
この時期の自分を支えてくれたのは、仕事に対してやれるだけのことはやったという思いと周囲の方のサポートでした。仕事を続けるために自分自身も精いっぱいの努力をしたし、周囲の方にもたくさんのサポートをしていただいた。できる限りのことをして、それでも難しかったのだからしょうがない、と自分で納得できたことは、気持ちを整理する助けになりました。
もし、一度も復職することなく退職していたら、いつまでも気持ちの整理をすることができなかったのではないかと思います。自分できちんとあきらめることができたということは、とても大切でした。
そして、自分に自信が持てなくなっていた私に、一つずつ自信を取り戻せるように支えてくださったのは周囲の方のサポートでした。何もできないと悲観的になっていた私に、見えにくくてもできることはたくさんあると教えてくださり、歩行訓練や生活機能訓練を通して、できることが少しずつ増えていく中で、「できない」から「できる」に変わっていき、自信を取り戻すことができました。
また、訓練を受けていく中で、同じように視覚障害を持ちながら社会で生活しているたくさんの仲間に出会いました。視覚障害を持ちながら夢をかなえている人の存在を知り、夢をあきらめなくてもいいんだと思うようになりました。
現在、私には新たな夢ができました。それは、もう一度看護師に戻るということ、自分にしかできない看護を見つけるということです。新たな夢や目標を持つことで、もう一度前に進めるようになったと感じています。今は、視覚障害者になった自分に自信が持てないということはなくなりました。毎日がただただ過ぎていくということもなくなり、一日一日、目標をもって過ごすことができています。
夢の持つ力は偉大です。夢は、どんなにつらい状況の時にも力を与えてくれます。私は、夢を持つことで生きがいを取り戻し、自分に自信を持つことができるようになりました。これからも困難な場面にたくさん直面すると思いますが、夢に向かって一歩ずつ歩んでいきたいと思います。そして、病気や障害を持つ子供たちに「夢をあきらめなくていいんだよ」と伝えていきたいと思います。